バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「じゃあ、先にどうぞ」

そう言われて、
胸の鼓動を誤魔化しながら、鞄を開けた。

中を覗かれるだけなのに、
心まで開かれてしまいそうで、無駄に慎重になる。

鞄の中から、先に小さく包んだものを取り出す。

包み紙の端が、少しだけくしゃっと鳴る。
その音すら、やけに大きく感じた。

ミサンガ。

色は派手じゃない。
でも、指に触れた瞬間、時間をかけて作ったのが分かる。

何度もやり直した結び目。
途中でほどけて、また編み直した跡。

ぱちぇは一瞬、それを見つめてから、少しだけ視線を上げた。

驚いたようでも、照れたようでもなく、
ただ、ちゃんと受け取ろうとする目。

「つけていい?」

確認する声が、少し低い。

「うん」

そう答えると、
ぱちぇは靴を脱いで、左足首にそっと巻く。

床に膝をつく仕草が、自然すぎて、
見てはいけないものを見ている気分になる。

結び目を作る指先が、妙に丁寧で。

急がない。
ほどけないように、指先で確かめながら。

それを見て、胸の奥がじんわり温かくなった。

嬉しい、だけじゃ足りない感情。

「……守ってくれるようにって作ったんだよ」

思ったより、素直に声が出た。

言った瞬間、少しだけ恥ずかしくなる。

「お守りみたいな感じ」

ぱちぇは、足首のミサンガを一度見てから、
小さく息を吸う。

何かを飲み込むみたいな仕草。

「ありがとう……大事にする」

短いけど、逃げない言葉。

そう言って、
もう一度だけ、指で軽く触れた。

確かめるみたいに。

それから、顔を上げて。

視線が合って、
一瞬だけ、時間が止まったみたいになる。

「で、次は?」

少し照れを隠すみたいな声。

「パウンドケーキ」

そう言って箱を出すと、
空気が、少しだけ柔らぐ。

張り詰めていたものが、
ゆっくり溶けていくみたいだった。