バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

さっきもここ通った。

自分でも分かるくらい、挙動が怪しい。
視線は落ち着かないのに、足だけが勝手に動いている。

目的も定まらないまま、
店内をぐるぐる。

冷蔵ケースの光がやけに眩しくて、
どこを見ればいいのか分からない。

「〇〇」

名前を呼ばれて、立ち止まる。

その一音だけで、現実に引き戻される。

振り向くと、
ぱちぇが楽しそうに笑っていた。

困らせているはずなのに、
咎める気配はまったくない。

「落ち着こ」

低くて、優しい声。

「……無理」

即答だった。

「だと思った」

そう言いながら、
手は離さない。

指先に、少しだけ力が入る。
逃がさない、というより、支えるみたいに。

それが、救いだった。

会計を済ませて、外に出る。

自動ドアが閉まる音がして、
一気に外の空気が流れ込む。

風に当たって、ようやく息ができた気がした。

胸の奥に溜まっていたものが、
少しだけ外に出た感じ。

「緊張してる?」

横から覗き込む声。

「……してる」

正直に言うしかなかった。

「可愛いな」

また、それ。

軽い調子なのに、
ちゃんと真っ直ぐ向けられている感じがして。

言われるたびに、
どう反応していいか分からなくなる。

ホテルまでは、そう遠くなかった。

近づくにつれて、
一歩一歩がやけに意識される。

並んで歩く距離。
繋いだ手。
時々、視線が合う。

逃げ場のない近さなのに、
不思議と怖くはない。

全部が、現実。