バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

緊張しているのが分かる。
 声が少しだけ硬くて、呼吸の間隔が一定じゃない。

 言葉を選びながら、慎重に話している。
 一言ごとに、ほんのわずかな間が挟まる。

 勢いで喋るタイプじゃない。
 だからこそ、余計な音がない。

 それが逆に、優しく感じた。

 場の空気を壊さないように。
 誰かを驚かせないように。

 自分が前に出るよりも、ちゃんとそこに居ることを選んでいる。
 そんな話し方だった。

「ずっと声、出してなかったんですか?」

 誰かの問いに、彼は一瞬だけ言葉に詰まった。
 マイク越しに、かすかな息を吸う音が聞こえる。

 それから、少し笑って答えた。

「……そうですね。あんまり、得意じゃなくて」

 笑い声は短くて、すぐに消えた。
 照れ隠しみたいでもあり、線を引いているみたいでもある。

 それ以上は語らない。
 理由も、説明しない。

 深掘りもしない。

 誰かが冗談を言って、空気が和らぐ。
 彼はそれに合わせて、小さく相槌を打つだけだった。

 それでいい、と思った。

 無理に知ろうとしなくてもいい。
 全部を見せてもらわなくていい。

 今は、同じ時間を共有できているだけで十分だった。

 その夜、集まった数人で軽く遊んだ。
 ルールも曖昧なままゲームを始めて、勝っても負けても笑う。

 彼は前に出すぎないけれど、要所でちゃんと声を出す。
 指示をするわけでも、盛り上げ役になるわけでもない。

 でも、不思議と安心感があった。

 そこにいるだけで、場が落ち着く。
 そんな存在だった。

 時間はあっという間に過ぎて、
 誰からともなく「そろそろ」の空気になる。

 適当に解散する。
 特別なことは、何もない。

 それでも、終わり際。

 一拍、間を置いてから。

「……また、来ます」

 少しだけ力を込めた声。
 それが、妙に真っ直ぐで。

 そう言われた一言が、胸に残った。

 PCを切ったあと、静かな部屋で一人になる。
 モニターの光が消えて、生活音だけが戻ってくる。

 でも、昨日までとは違った。

 孤独は、まだある。
 不安も、消えていない。

 それでも。

 この夜は、確かに誰かと繋がっていた。

 声が、残っている。

 それだけで、もう少しだけ、頑張れそうな気がした。