バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

会うって決まっただけなのに、
時間の流れ方が、少し変わった気がした。

一日が、やけに細かく区切られる。
朝、昼、夜、その間に何度も時計を見る。
まだ進んでいないはずの針が、意識の中では先走っている。

週末まで、まだ数日ある。
それなのに、カレンダーを見る回数だけが増える。

特別な予定が書いてあるわけでもない。
ただ、同じ数字を何度も確かめているだけなのに、
その行為自体が、心を落ち着かせるための儀式みたいになっていた。

配信は続いていた。
二人で話して、笑って、視聴者とやり取りして。

いつも通りの開始音。
いつも通りのコメントの流れ。
ぱちぇの声も、間の取り方も、何一つ変わっていない。

外から見れば、何も変わっていない。

――でも、内側は違った。

返事をするまでの一拍が、やけに長く感じたり。
相槌ひとつに、意味を探してしまったり。
言葉を選ぶ時間が、少しだけ慎重になっている自分に気づく。

声を聞くたびに、
「あと何日」という数字が浮かぶ。

無意識に、数えてしまう。
減っていく数字に安心して、
同時に、近づいてくる現実に胸がざわつく。

画面の向こうの存在が、
もう“概念”じゃなくなっている。

声だけの人。
文字だけの人。
そうやって安全な距離で保ってきたはずなのに。

今は、同じ空間に立つ姿まで、はっきり想像できてしまう。



通話の途中、ふとした沈黙。

さっきまで途切れなかった会話が、
自然に止まる、その一瞬。

「……緊張してる?」

ぱちぇに聞かれて、少し考える。

即答できなかったのは、
自分でも整理がついていなかったからだ。

楽しみと、不安と、期待と、怖さ。
どれも嘘じゃなくて、全部本音で。

「してる、と思う」

正直に答えた。

言葉にした途端、
胸の奥にあった曖昧な感情が、少しだけ形になる。

「楽しみの方が大きいけど」
「でも、変だったらどうしようとかは考える」

声に出すと、
自分が思っていた以上に、弱気だったことに気づく。

「変って?」

問い返されて、少し詰まる。

「会って、がっかりされたら、とか」

冗談みたいに言えたらよかった。
でも、声は思ったより真面目だった。

一瞬、間があって。

通話が切れたわけじゃない。
ただ、相手も言葉を選んでいる沈黙。

「それ、俺が言う側だろ」

苦笑混じりの声。

その一言で、
少しだけ肩の力が抜ける。

「〇〇が思ってるより、俺は普通だぞ」

「それはそれで、ちょっと不安」

思わず出た返し。

「ひど」

短い笑い声。

笑い合って、空気が緩む。

でも、その裏で、
お互いに同じことを考えているのが分かった。

冗談で包んでも、
笑って誤魔化しても、
避けられない一点に、視線は向いている。

――現実になる、ってこと。