バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

それから数日、空気は少し変わった。
 劇的な出来事があったわけじゃない。
 毎日が急に明るくなったわけでもない。

 それでも、確かに何かが違っていた。

 直接話すことはないけれど、タイムラインの端々で存在を感じる。
 いいねの位置、コメントのタイミング、流れてくる名前。

 配信の告知に反応してくれたり、他の人の会話に混ざっていたり。
 主張しすぎないのに、ちゃんとそこにいる。

 距離はある。
 踏み込んでこないし、こちらからも踏み込まない。

 でも、確かに同じ場所にいる。

 夜。
 配信を終えたあとの静けさにも、少しだけ慣れてきていた。
 いつものように配信を終えて、雑談用のルームを開いた。

 視聴者同士で軽く話す、ゆるい時間。
 話題が途切れても誰かが拾ってくれるし、無言でも許される。

 誰が来てもいいし、来なくてもいい。
 ただ、そこに空間があるだけ。

 そんな場所に、また通知が入る。

 ――ぱちぇ。

 画面に表示された名前を見た瞬間、無意識に背筋が伸びた。
 自分でも驚くくらい、反応が早かった。

 少しだけ、心臓が跳ねた。

 入室しても、すぐには喋らない。
 いつも通り、挨拶もせず、文字だけがぽつぽつと流れる。

 他愛もない話題。
 最近やっているゲームの話、配信時間の話、ちょっとした愚痴。

 特別なことは何もない。
 なのに、そのやり取りが妙に落ち着いた。

 その流れで、言った。

「音声、出せる人いる?」

 軽い気持ちだった。
 誰もいなければ、それで終わるだけ。

 一瞬、間が空く。

 前なら、誰も反応しなかったはずだ。
 沈黙のまま、話題が流れていく光景が目に浮かぶ。

 なのに。

「……少しなら」

 聞き覚えのある声が、また響いた。

 頭が追いつかないまま、時間だけが進む。
 鼓動の音がやけに大きく感じられた。

 驚きで言葉を失う。
 何か言わなきゃと思うのに、喉が動かない。

 周りも、同じだったらしい。

「え、喋ってる?」
「声、初めて聞いた」

 コメントが一気に流れ始める。
 ざわつく空気が、画面越しにも伝わってくる。

 その中心にいるはずなのに、私は何も言えなかった。

 まただ。
 あの夜と同じ感覚。

 また、声。

 でも今度は、前よりも少し自然だった。