バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「前はさ」

 少し低くなる。

「先のこと考えるの、苦手だった」

「うん」

「考えようとすると、途中で止まる感じがして」

 それは、今まで何度も感じてきた気配だった。

 未来を思い描こうとすると、
 どこかで線が引かれるような、不安。

「でも最近」

 ぱちぇは、言葉を選びながら続ける。

「〇〇と一緒だと、
 その先も続いていい気がする」

 胸の奥が、静かに揺れた。

「老後とかさ」

「うん」

「正直、現実味はないけど」

 少し照れたように笑う。

「でも、一緒にいられたらいいなって思う」

 僕は、少しだけ間を置いてから答えた。

「……いいね」

「え」

「それ」

 肩の力を抜くみたいに言う。

「ずっと一緒にいようね」

 ぱちぇが息を止めたのが、分かった。

「大好きだよ」

 特別な言い方じゃない。
 飾りもしない。

 ただ、今の気持ちをそのまま。

「……うん」

 ぱちぇの声は、少し震れていた。

「俺も、大好き」

 それだけで、十分だった。

 未来を誓う言葉じゃなくて、
 今を肯定する言葉。

 遠い話を、
 今の距離で共有できた夜。

 通話を切ったあとも、
 胸の奥は不思議と静かだった。

 この人となら、
 続いていく気がする。

 そう思えること自体が、
 もう、幸せだった。