バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「もう、何時間?」

「……分かんない」

 ふと、現実に引き戻される。

 時計を見ると、
 思っていた以上に時間が経っていた。

 夜はとっくに深くなっていて、
 窓の外は静まり返っている。

 それでも、
 誰も「終わろう」とは言わなかった。

 話題が尽きたわけじゃない。
 盛り上がり続けていたわけでもない。

 ただ、
 切る理由が、見つからなかった。

 ようやく配信を切ったとき、
 通話はそのまま残った。

 配信者としての役目が終わって、
 画面の向こうに残ったのは、
 声と、息遣いだけ。

「……お疲れ」

 少し力の抜けた声。

「お疲れさま」

 それだけで、
 一気に肩の力が抜ける。

 配信中は張り詰めていたものが、
 ゆっくり溶けていく。

「楽しかったね」

 ぽつり、と零す。

「うん。
 正直、やりすぎた気はするけど」

 苦笑い混じりの声。

「後悔は?」

 少しだけ、真面目な声。

 冗談に逃げない問い方だった。

「……してないよ」

 即答だった。

 考える余地も、
 言い換える必要もなかった。

 その返事を聞いて、
 向こうで小さく息を吐く気配がした。

 通話を切ったあと、
 僕はしばらく、椅子から動けなかった。

 ヘッドセットを外す気にもなれず、
 ただ、ぼんやりと画面を見つめる。

 今日、告白して。
 今日、恋人になって。
 今日、声を繋ぎ続けた。

 あまりにも、濃い一日。

 速すぎるかもしれない。
 軽率だと思われるかもしれない。

 でも――

 この夜を、
 なかったことにはできない。

 画面越しでも、
 声だけでも。

 確かに、
 誰かと一緒に過ごした夜だった。

 その事実だけが、
 静かに、胸の奥に残っていた。