バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「でも」

 その一言のあと、間が入る。

 短い沈黙。
 けれど、その中には迷いよりも、整理された感情があった。

「すごく、嬉しい」

 はっきりした声だった。

 曖昧さも、照れ隠しもない。
 感情をそのまま差し出してくる音。

「俺さ。
 ずっと、隣に立てたらいいなって思ってた」

 その言葉は、軽くなかった。
 ずっと胸の奥に置いてきた願いを、ようやく外に出したみたいだった。

 聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 言われると思っていなかったわけじゃない。
 でも、こうして真正面から受け取ると、重みが違う。

 言葉を選びながら、噛みしめるように続ける。

「でも、それを言う資格があるのか分からなくて」

 その一文に、彼の時間が詰まっていた。

 距離を保つことを選び続けてきた理由。
 踏み込まなかった理由。
 踏み込めなかった理由。

 ――やっぱり。

 白蛇の絵は、僕だけの独白じゃなかった。
 勝手に描いた、勝手な感情の吐露じゃなかった。

 あれは、ちゃんと届いていた。

「だから、〇〇から誘われたのが……」

 少し照れたような息。

 その息遣いだけで、彼がどれだけ動揺しているかが分かる。

「正直、信じられなかった」

 その言葉を聞いた瞬間、
 胸の奥に溜まっていた不安が、すっと溶けた。

 勘違いじゃなかった。
 一方通行でもなかった。

 同じ場所を、ちゃんと見ていた。

「じゃあ」

 僕は、少しだけ声を柔らかくする。

 確かめるためじゃない。
 背中を押すためでもない。

 ただ、並ぶための言葉。

「一緒にやろうか」

「……うん」

 短いけれど、迷いのない返事。

 即答じゃないからこそ、重い。
 考えた末の、選択だと分かる。

 それだけで、十分だった。

 具体的なことは、まだ決めていない。
 名前も、形も、ルールも。

 誰が主で、誰が従か。
 どこまで踏み込むのか。
 何を共有して、何を守るのか。

 何一つ、決まっていない。

 ただ、一つだけ共有している感覚があった。

 黒と白。
 龍と蛇。

 違うからこそ、並べる。

 強さと、静けさ。
 前に出る者と、支える者。

 通話を切ったあと、
 僕はしばらく机に突っ伏していた。

 勢いで言った部分も、確かにある。
 感情が背中を押したのも、否定できない。

 でも、後悔はなかった。

 むしろ、胸の奥が、妙に静かだった。

 ざわつきが消えて、
 ようやく呼吸が整ったみたいな感覚。

 ようやく、言うべき言葉を言えた気がした。

 白蛇は、もう隣にいる。

 画面の向こうじゃない。
 想像の中でもない。

 同じ場所に、立つ存在として。

 これから始まるのは、
 配信という形を借りた――

 僕たちの、共同の時間だ。