バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

翌朝。

カーテン越しの光が、やけに眩しかった。

目を開けた瞬間、
「ああ、戻ってきちゃったんだ」と思う。

何も終わっていない現実に、
無理やり引き戻された感じ。

スマホを手に取る。

そこにあったのは、
ぱちぇからの通知だった。

見慣れない表示。
今までとは、明らかに違う温度。

本名。
住所。
写真。

一瞬、息が止まる。

軽いノリじゃない。
勢いでもない。

昨日じゃない。
もっと前でもない。

――今だから、送られてきたんだ。

一人になったこと。
逃げ場がなくなったこと。
それを、ちゃんと見ていたみたいに。

画面の向こうの人が、
急に現実の輪郭を持つ。

声だけだった存在が、
名前を持って、
場所を持って、
確かに生きている人になる。

――信じてくれている。

その重さが、
ゆっくり胸に落ちてきた。

気づいたら、また涙が出ていた。
昨日までとは、種類の違う涙だった。

怖い。
でも、突き放された感じはしなかった。

むしろ、
「ここに来い」と言われているみたいだった。

僕も送る。

そう決めたのに、
指が一瞬、止まる。

これを送ったら、
もう戻れない気がした。

でも、戻りたい場所が、
もうどこにもないことも分かっていた。

深く息を吸って、
画面をもう一度見る。

自分の名前。
住所。
写真。

怖くないと言えば嘘になる。

それでも、
一人に戻る方が、ずっと怖かった。

別れたこと。
今は一人でいること。

隠さない。
取り繕わない。

全部、そのまま送る。

最後に、短く打つ。

「今なら、話せる」

助けて、じゃない。
救って、でもない。

今なら、ちゃんと選べる。
そういう意味だった。

送信して、
そのまま通話をつなぐ。

呼び出し音が鳴る。

短い音なのに、
心臓の音の方が、ずっと大きく聞こえた。

あの夜、
終わらせるつもりだった時間は、
ここで、静かに向きを変えた。

逃げじゃない。
縋りでもない。

ただ――
一人で立てないことを、
ようやく認めただけ。

そしてそれは、
人生を選び直す合図だった。