バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

推しの配信が終わり、
 声の場も少しずつ人が抜けていく。

 余韻を引きずるように、挨拶が交わされて、
 誰かが「おつかれ」と言って、回線が切れる音がする。
 現実に戻る準備みたいな時間。

 気づけば、話し声は減っていた。

 最後に残ったのは、僕とぱちぇだけだった。

 沈黙が流れる。
 でも、不思議と気まずくはない。
 これまで何度も経験してきた、二人きりの静けさ。

「本当に、描いてくれるの?」

 確認するような声。
 冗談に逃がす余地を残した、慎重な問いかけ。

「うん。
 期待しないでほしいけど」

 少しだけ、予防線を張る。
 絵の上手さじゃなく、気持ちの話になるのが怖かった。

 そう言うと、
 向こうで小さく笑う気配がした。

 それだけで、胸が緩む。

 通話を切ったあと、部屋は急に静かになった。

 さっきまで誰かの声があった場所が、
 嘘みたいに空っぽになる。
 でも、不安より先に、やることが浮かんだ。

 机に向かい、ペンを取る。
 何を描くかは、もう決まっていた。

 黒龍。

 それは、僕自身だ。
 配信で纏っている姿。
 強くて、孤独で、近づくものを拒む存在。

 守るために、牙を剥くしかなかった自分。

 なら、その隣に立つのは。

 考えるより早く、線が動いた。
 迷いは、なかった。

 細く、しなやかで。
 主張しすぎず、でも消えない存在。

 蛇。

 黒龍のそばにいる存在として、形は自然に決まった。
 敵ではなく、従属でもない。
 ただ、同じ場所にいるもの。

 色は――白。

 理由は、はっきりしている。
 ぱちぇの印象、そのままだった。

 強く主張しない。
 前に出ない。
 でも、必要なときには、ちゃんと傍にいる。

 静かで、あたたかい。

 首元には、小さな勾玉を描いた。
 黒龍と同じ場所に。

 それは、偶然じゃない。
 同じ世界にいる、という意味だった。

 描き終えたとき、少しだけ手が震えていた。