バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

その日は、特別な予定があったわけじゃなかった。

 ただ、みんなで推しの配信を見ながら話そう、というだけ。
 声だけで集まる場を作って、集まれる人が集まる。
 約束も義務もない、いつもの、ゆるい時間。

 僕は聞き役に回りながら、流れてくる声に相槌を打ち、感想を拾っていた。
 自分が配信者として話すときとは違う、少し距離を置いた立場。
 その分、肩の力が抜けて、ただ「一緒に見ている」感覚が強かった。

 コメントを読む必要も、場を回す責任もない。
 ただ、推しの一挙手一投足に反応して、誰かと同じタイミングで笑う。
 それだけの時間が、今の僕には少し救いだった。

 そこに、ぱちぇもいた。

 名前を見つけた瞬間、ほんの一拍、心臓が遅れる。
 もう、声を聞くこと自体は珍しくない。
 それでも、彼の声が混じるだけで、空気の温度が少し変わる気がした。

 自分でも意識しすぎだとは思う。
 でも、完全に平常心に戻れるほど、何もなかったことにはできていなかった。

 推しの配信は、視聴者参加型の企画だった。
 内容は、とてもシンプルで――
 「自分の描いた絵を、視聴者にプレゼントする」というもの。

 完成したイラストが画面に映るたび、歓声が上がる。
 世界にひとつだけのもの。
 その価値が、空気を少し浮つかせた。

 それを見た瞬間、場がほんのりざわつく。

「いいな」
「当たったら一生の宝物だね」

 そんな声が重なっていく中で、
 ぱちぇが、少しだけ間を置いて言った。

「……結依が描いてくれたら、嬉しいな」

 一瞬、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

 冗談とも取れる。
 その場の流れに乗った、軽い一言にも聞こえる。
 でも、声のトーンが妙に落ち着いていて、照れも誤魔化しもなかった。

 まるで、当たり前のことを口にしたみたいに。

「上手くはないけどね」

 考えるより先に、言葉が出ていた。
 自分でも驚くほど、自然な返答だった。

「それでもいいよ」

 即答だった。

 間も、迷いもない。
 選び直す余地すら与えない、静かな肯定。

 胸の奥が、少しだけ熱くなる。