バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

読み終わったあと、スマホを置いて、しばらく動けなかった。

 ガチ恋。

 配信者なら、何度も聞く言葉だ。
 冗談混じりに言われたこともある。
 ネタにして、笑って、流してきた。

 でも、これは違う。

 軽くない。
 消せない。
 なかったことにできない。

 返事をしなきゃいけない。

 そう分かっているのに、
 指が、動かない。

 もし、ここで間違えたら。
 彼も、僕も、きっと戻れない。

 今までみたいに、
 「配信者」と「視聴者」でいられなくなる。

 それが怖いのか、
 それでもいいと思ってしまう自分が怖いのか、
 もう分からなかった。

 少しだけ、間を置いてから打ち始める。

「正直に言ってくれてありがとう」

 送信前に、何度も見返す。
 言い訳にも、拒絶にもならないか。
 逃げていると思われないか。

 指が震える。

「すぐ返事できなくてごめん。
 ちゃんと考えたかった」

 送信。

 既読がつく。

 ほんの数秒。
 でも、心臓が一拍、強く鳴った。

 返事は、すぐには来なかった。

 その沈黙が、逆に苦しい。

 責められているわけでも、
 急かされているわけでもないのに、
 待つ時間が、重たい。

 考えすぎて、頭が痛くなる。

 僕は、彼をどう思っている?

 安心する声。
 名前を呼ばれるときの温度。
 離れたあとに、胸の奥に残る余韻。

 全部、否定できない。

 嫌じゃない。
 むしろ、大切にされているのが分かる。

 でも、それを
 “恋”と呼んでいいのか、分からない。

 この感情に名前をつけた瞬間、
 もう、後戻りはできなくなる気がして。

 スマホは、まだ沈黙したまま。

 その静けさの中で、
 僕は初めて、
 誰かの気持ちの重さを、両手で抱えていた。