バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

そのメッセージが届いたのは、深夜だった。

部屋は暗くて、
時計の秒針の音だけがやけに大きく感じる時間帯。

通知音に気づいてスマホを開いた瞬間、
スクロールバーの長さで分かってしまった。

――長い。

一行や二行じゃない。
勢いで打った文章でも、
感情が溢れただけの衝動でもない。

時間をかけて、
何度も書いて、消して、
それでも残った言葉。

そういう文章だ、と直感的に分かった。

胸の奥が、すっと静かになる。
不安が消えたわけじゃない。
むしろ逆で、
音が全部遠のいて、覚悟だけが残る感じ。

既読をつけるのが怖くて、少しだけ時間を置いた。

布団に横になって、スマホを伏せる。
天井を見つめる。

模様もないはずなのに、
視線だけがそこに縫い留められる。

読まなければ、
まだ知らないままでいられる。

そう分かっているのに。

結局、逃げられなかった。

気づけば、またスマホを手に取っている。
指が、自然に動く。

覚悟なんて、ちゃんと決めたわけじゃない。
ただ、もう引き返せないところまで来ているだけだった。

スマホに触れて、読む。

最初の数行は、取り留めのない言葉だった。

謝罪。
前置き。
「急に送ってごめん」という言葉。
「重いと思うなら読まなくていい」という逃げ道。

言うつもりはなかった、という言葉が、
形を変えて、何度も繰り返されている。

言い訳みたいで、
でも、切実で。

その必死さが、
逆に、軽くないことを物語っていた。

本当にどうでもいい相手には、
こんな書き方はしない。

そう思ってしまう自分がいて、
胸の奥が、じわりと痛む。

でも、途中から変わる。

文章の温度が、はっきりと。

前置きが減って、
遠慮が薄れて、
行間に、決めてきた覚悟が滲み出る。

逃げ道が、少しずつ消えていく。

「結依にガチ恋してる」

その一文で、息が止まった。

音が、消える。
部屋の気配が、一瞬で遠ざかる。

時間が、止まったみたいに感じるのに、
心臓だけが、やけにうるさい。

頭が真っ白になる。
言葉の意味は分かるのに、
受け止める準備が、追いつかない。

でも、指は止まらない。

怖いのに、
逃げたいのに、
続きを、読んでしまう。

「言わないつもりだった。
 言ったら困らせるって分かってたし、
 今の関係が壊れるのも怖かった」

胸の奥が、きしむ。

それは、
僕がずっと感じていた距離感と、
驚くほど、ぴったり重なる言葉だった。

近すぎず、遠すぎず。
踏み込まないようで、離れもしない。

罰ゲーム麻雀のこと。
あの配信の空気。
冗談に見せかけた本音。

軽く流していたはずの出来事が、
一つずつ、別の意味を持って立ち上がってくる。

偶然じゃなかった。
勢いでもなかった。

あの夜も、
あの声も、
全部、この言葉に続いていた。

「何日も悩んだ。
 それでも伝えようと思ったのは、
 結依のことを支えたいって思ったから」

支えたい。

その言葉が、胸に深く刺さる。

好きだから、じゃない。
一緒にいたいから、でもない。

今にも崩れそうな僕を、
ちゃんと見て、
それでも傍にいようとする人の言葉。

それが、
こんなに重いなんて、思っていなかった。

画面を閉じられない。

メッセージは、まだ続いている。
でも、この一文だけで、

もう十分すぎるほど、
心は揺さぶられていた。