バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

罰ゲーム麻雀の配信が終わったあと、しばらく何も手につかなかった。

 画面を閉じても、耳の奥に声が残っている。
 低くて、落ち着いていて、何度も僕の名前を呼んだ声。

 ――罰ゲームだよ。
 そう、何度も自分に言い聞かせた。

 企画としては成功だったし、視聴者も盛り上がっていた。
 誰も傷ついていないし、空気も悪くなっていない。

 数字も伸びた。
 切り抜きの話も出ている。
 配信者として見れば、何ひとつ問題はない。

 それなのに。

 胸の奥に、言葉にできない違和感が沈んでいた。

 あの告白は、企画だった。
 罰ゲームとして用意された“役割”。

 そう分かっているはずなのに、
 思い返すたび、声の震えや間の取り方まで思い出してしまう。

 軽く言えばよかったはずだ。
 冗談めかして、笑って流せばよかったはずだ。

 でも、彼はそうしなかった。

 真剣すぎるくらい、真っ直ぐで、
 逃げ道を用意しない声だった。

 次の日の配信。
 タイトルも内容も、いつもと同じ。

「こんゆうー」

 声はちゃんと出た。
 いつも通りのトーン。
 いつも通りの入り。

 でも、心のどこかが少しだけ浮ついている。

 配信画面の向こうで、
 “昨日”を意識している自分がいるのが分かった。

 コメント欄が流れる。
 いつもの名前、いつもの挨拶。

 その中に、彼の名前が混じる。

 たったそれだけで、視線が止まる。

 無意識に、コメント欄を追ってしまう。
 彼が次に何を書くのか、
 どんな温度でそこにいるのか。

 昨日の配信について触れるコメントが出始める。

「罰ゲーム麻雀やばかった」
「告白ガチすぎて寝れなかった」

 一瞬、喉が詰まる。

 でも、それを悟られないように、
 軽く笑って、話題を流す。

「罰ゲームだからね。
 あれはあくまで企画」

 言葉は軽い。
 でも、胸の奥は重い。

 そう言いながら、
 自分に言い聞かせているのが分かる。

 彼は、多くを語らない。

 昨日のことにも、
 告白にも、
 自分の気持ちにも、触れない。

 それが余計に、分からなくさせる。

 冗談だったのか。
 本気だったのか。
 どこまでが企画で、どこからが彼自身だったのか。

 でも、いる。

 コメント欄の端に、
 いつもの名前で、
 いつもの距離感で。

 静かに、そこにいる。

 配信の終盤、ふいに声が重なる。