バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「……結依」

 その呼び方だけで、心臓が跳ねる。

 名前を呼ばれる前に、少しだけ間があった。
 息を吸う音。ほんの僅かな沈黙。
 それが逆に、彼の緊張をはっきり伝えてきた。

 ふざけている空気じゃない。
 勢いで言っている感じでもない。

 それが、怖いくらいに分かってしまう。

「ずっと、結依のことが好きだった」

 一瞬、世界が静かになる。

 コメント欄も、VCも、全部。

 画面は動いているはずなのに、
 音だけが、遠くに行ったみたいだった。

 罰ゲーム。
 そういう流れだった。

 深夜の企画で、笑って終わるはずの一言。
 なのに、その声には逃げ道がなかった。

「俺じゃ……ダメかな」

 冗談っぽく言うわけでもなく、
 軽く流すわけでもなく。

 言い切らないのに、誤魔化してもいない。
 答えを、ちゃんと待つ言い方。

 真っ直ぐだった。

 胸の奥が、ぎゅっと縮む。
 苦しいのに、嫌じゃない。

 頭の中で、何度も「企画だから」と繰り返す。
 でも、その言葉がどんどん弱くなっていく。

 この人は、
 いつも無理に踏み込まなかった。

 近づきすぎず、離れすぎず。
 必要なときだけ、ちゃんと声を出した。

 そんな人が、今。

「絶対、幸せにするから」

 声が、少し震えている。

 強がっていない。
 自信満々でもない。

 それでも、覚悟だけは伝わってくる。

「結依、俺の傍にいてほしい」

 コメント欄が、悲鳴みたいになる。

「え?」
「ガチじゃん」
「空気変わった」

 喉が、詰まる。

 言葉が、出てこない。
 否定も、冗談も、すぐには選べなかった。

 これは罰ゲーム。
 でも――

 画面の向こうで、
 彼はきっと、今も待っている。

 逃げ道を用意しないまま、
 僕の答えを。