バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

そして――
 彼の名前が、そこにあった。

 視界に入った瞬間、呼吸が一拍遅れる。
 偶然かもしれない。
 でも、胸の奥が勝手にざわついた。

 一瞬、言葉に詰まる。

「……参加、する?」

 自分でも分かるくらい、声が慎重だった。
 断られてもいいように、逃げ道を残す言い方。

 画面の向こうで、少し間が空く。
 その数秒が、やけに長く感じられた。

「うん。
 大丈夫なら」

 その声。

 配信で聞くのは、初めてだった。

 低くて、落ち着いていて。
 イヤホン越しなのに、距離が一気に縮まった気がする。

 胸の奥が、きゅっと縮む。

 知っているはずの存在が、急に“現実”になる。
 そんな感覚。

「じゃ、始めよっか」

 僕はできるだけ平静を装って、ゲームを進めた。
 声の震えに気づかれないように、少しだけ早口になる。

 牌が配られ、点数が動く。
 軽い雑談が挟まる。

 誰かが冗談を言って、誰かが笑う。
 場は、あくまで“企画”。

 そう、頭では分かっている。

 なのに。

「結依、今の上手かった」

 何気ない一言。
 でも、名前を呼ばれるたび、意識が一気にそっちに引っ張られる。

 視線を落として、画面を見つめる。
 心臓の音が、やけに大きい。

「ありがとう」

 返した声が、少し上ずった気がして、喉を鳴らした。

 彼は、あまり多くを喋らない。
 必要なことだけ、静かに言う。

 それが、余計に集中を乱す。

 結果は――
 彼が、一位。

 一度じゃない。

 二度、三度。

 流れを読むのが上手い。
 無理をしない。
 堅実で、落ち着いている。

 そのプレイスタイルまで、彼らしかった。

「……罰ゲーム、だね」

 誰かの声で、現実に引き戻される。

 コメント欄が一斉に沸く。

「きたーーー」
「言うの?」
「ガチで?」

 胸の奥が、どくんと鳴る。
 冗談のはずだった。
 企画のノリ。

 なのに、逃げ場がない。

 少し沈黙が流れる。

 彼は、すぐには喋らなかった。
 一度、息を整えるみたいに間を置いてから――
口を開いた。