バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「今日は楽しかった」

 誰かが言う。

「またやろうね」
「次はもう少し早い時間で」

 そんな声が重なって、ひとつずつ消えていく。
 挨拶とともに名前が抜けて、アイコンが減っていく。

 一人、また一人。

 気づけば、残っているのは二人だけだった。

 静かになる。
 さっきまで賑やかだったはずの場所が、急に広く感じた。

「……結依」

 呼ばれる。

 イヤホン越しでも分かる、少しだけ躊躇った声。
 慎重に、距離を測るみたいな響き。

「今日のやつ、嫌だった?」

 一拍置いてからの言葉。
 軽く聞いているようで、ちゃんと答えを待っている。

 僕は首を振る。

 言葉にする前に、気持ちは決まっていた。

「ううん。
 むしろ……嬉しかった」

 少し照れたけど、嘘は混ぜなかった。
 曖昧にしたくなかった。

「そっか」

 短い返事。

 そのあと、ふっと息を吐く音が聞こえた。
 張りつめていたものが、少し緩んだみたいな。

「じゃあ、よかった」

 それだけ。

 なのに、その一言で胸がいっぱいになる。
 確認してくれたことも、安心してくれたことも。

 画面を閉じたあと、
 ベッドに倒れ込んだ。

 天井を見つめながら、深く息を吐く。

 呼び方が変わっただけ。
 たった、それだけ。

 でも。

 この夜を境に、
 彼は“その他大勢”じゃなくなった。

 まだ、恋とは呼べない。
 でも、確実に。

 僕はもう、
 戻れないところまで来ていた。