バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

約束していた夜は、思ったより早くやってきた。

 深夜。
 日付が変わる少し前。

 部屋の灯りを少し落として、イヤホンをつける。
 時計を一度だけ確認してから、画面を開いた。

 いつもの場所に、少しずつ人が集まってくる。
 通知が鳴るたび、胸の奥が小さく揺れた。

 今日は雑談じゃない。
 ただ集まって話すだけの夜じゃない。

 目的がある。

「こんばんはー」
「きたよ」
「今日だね」

 軽い挨拶が流れていく。
 普段と同じやり取りなのに、どこか空気が違った。

 僕は深く息を吸ってから、口を開く。

「じゃあ、始めよっか」

 その一言で、場の温度が変わった。

 深夜の麻雀。
 参加者は四人。

 ルール確認。
 音量チェック。
 準備が整うにつれて、無言の時間が増えていく。

 画面越しなのに、不思議と緊張感があった。
 指先が少し冷たい。

 点数。
 運。
 読み合い。

 そして、ちょっとした遊び心。

「せっかくだし、何か賭けようよ」

 誰かの冗談みたいな一言に、空気が緩む。
 くすっと笑う声が混じった。

「罰ゲーム?」
「軽いやつね」

 他愛ないやり取り。
 そのはずだったのに。

 僕は一瞬、言葉を探してしまった。
 胸の奥で、何かがうずく。

 それでも、口が先に動いた。

「じゃあさ――
 僕が勝ったら、みんな僕のこと、違う呼び方で呼んで」

 一瞬、静かになる。

 誰もすぐに反応しない。
 その沈黙が、やけに長く感じた。

「え、永久?」
「永久は重くない?」

 冗談半分の声。
 でも、どこか本気を測るみたいな間。

 僕は、少しだけ笑って。

「永久で」

 自分でも驚くくらい、即答だった。

 冗談のつもりだった。
 場のノリ。
 深夜テンション。

 でも、言葉にした瞬間、胸の奥が静かになった。

 どこかでずっと思っていた。
 このままの距離じゃ、足りないって。

 名前ひとつで、関係が変わるなんて分かってる。
 それでも。

 “この人たちとの距離を変えたい”
 そんな気持ちが、確かにあった。

「じゃあ、逆は?」

 誰かが、探るように聞く。

 僕は少しだけ考えて、首を振った。

「逆は……考えてない」

 逃げだったかもしれない。
 それでも、今はそれでよかった。

 それ以上、誰も突っ込まなかった。

 軽く笑って、話題は流れていく。

 そして。

 そのまま、ゲームが始まった。