バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

遊びの間、僕はいつもより周りを見ていた。

 誰が声を出しているか。
 誰が文字だけで参加しているか。
 いつもなら流してしまうような違いが、妙に気になる。

 彼は、基本は文字だった。
 必要なことだけを短く打って、無駄がない。

 でも、集中した瞬間。

「……あ」

 ほんの短い声。
 驚いたような、気を抜いたような。

 それだけで、場の空気がふっと和らぐ。

「今の聞こえた」
「喋った?」

 誰かが笑い混じりに言うと、少し間が空いてから。

「ごめん」

 小さく、控えめな声。
 誤魔化すでもなく、堂々とするでもない。

 そのあとに訪れる、ほんの一瞬の沈黙が、逆に彼の緊張を伝えてきた。

 出すつもりはなかった声。
 思わず漏れてしまった音。

 その感じが、妙に人間らしくて。

 僕は、その反応が好きだと思ってしまった。

 理由は分からない。
 ただ、胸の奥が少しだけ柔らかくなる。

 遊びが終わる頃、時計はもう深夜二時を回っていた。

「そろそろ寝る人は寝よう」

 誰かの言葉で、現実が戻ってくる。

 明日。
 仕事。
 学校。
 それぞれの生活。

 それぞれが挨拶をして、ひとり、またひとりと抜けていく。
 画面の人数表示が、静かに減っていく。

 気づけば、残っているのは数人。
 そして、彼。

 言葉のない時間が流れる。

 でも、不思議と気まずくはなかった。
 むしろ、急に話し始める方が不自然に思えるくらい。

 誰も何も言わない。
 それでも、ちゃんと“一緒にいる”。

「……今日、楽しかった」

 僕がそう口にすると、少しだけ間が空いた。

 返事を考えているのが、分かる。

「俺も」

 短いけれど、はっきりした声。

 言葉を飾らないぶん、真っ直ぐに届いてきた。

 それだけで、胸が熱くなる。

 それ以上、何も言わずに解散した。
 余韻だけを残して。

 画面を閉じたあとも、しばらくスマホを置けなかった。

 ただの遊びの提案。
 ただの深夜の集まり。

 それなのに。

 この夜から、何かが始まる気がした。

 まだ名前は変わらない。
 距離も、測れるほどある。

 でも、同じ夜を過ごすことが、当たり前になりつつあった。

 次は、きっと――
 もっと深いところまで、踏み込む。

 そんな予感だけが、静かに残っていた。