バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

夜、ベッドに横になって、スマホを眺める。
 画面は暗いまま。
 通知は来ていない。

 それでも、何度も更新してしまう。
 意味なんてないのに、指だけが勝手に動く。

「……待ってるみたい」

 小さく呟いて、苦笑する。
 自分で言っておいて、少し情けなくなる。

 別に、約束をしているわけじゃない。
 毎日連絡を取り合っているわけでもない。
 連絡が来なくても、何もおかしくない。

 それなのに。
 来ると嬉しい、と思ってしまう。

 その気持ちを、まだ名前のないまま抱えていた。

 ある夜、雑談音声グループに人が集まった。
 いつもより少人数で、声も文字も、どこかゆるい。

 気を張らなくていい空気。
 流れで誰かが言った。

「たまには、みんなで何かしません?」

 ゲームの名前がいくつか出る。
 僕は画面を見ながら、少し考えた。

 盛り上げなきゃ、という気負いはなかった。
 ただ、この時間が続けばいいと思っただけだ。

「じゃあ……軽く遊べるやつ、やろっか」

 特別な意味はなかった。
 ただ、その場の流れ。

 参加者が集まる中、彼の名前もあった。
 それを見つけた瞬間、心臓が一度、強く跳ねる。

 でも、何事もないふりをした。

 音声は、出ない。
 文字だけ。

 それでいい。
 むしろ、その方が落ち着く。

 ゲームが始まる。
 画面に集中しながら、チャット欄を追う。

 彼の短文は、いつも通りだった。
 的確で、落ち着いていて、無駄がない。

 指示でもなく、主張でもない。
 ただ、必要なことだけを置いていく感じ。

 そのテンポが、心地よかった。

 でも、勝ったときだけ。

「……やった」

 ぽつりと、声が出た。

 一瞬の沈黙。
 空気が、ほんの少し止まる。

 すぐに笑いが起きる。

「今、喋った?」
「聞こえた気がする」

 ざわつく中で、彼は少し間を置いてから答えた。

「……ごめん、つい」

 言い訳みたいで、でも素直で。
 その一言が、なぜか可笑しかった。

 胸の奥が、くすぐったくなる。
 声が出たことよりも、その反応が。

 遊びが終わって、自然解散。
 誰からともなく抜けていく。

 人数が減るたび、少しずつ静かになる。

 気づけば、最後に残ったのは、僕と彼だけだった。

 沈黙。

 変に長くも、短くもない。
 気まずさは、ない。

 でも、何か言わなきゃいけない気がして。
 理由は分からないけれど。

「今日は、ありがとう」

 そう言うと、少し間を置いて返ってきた。

「……こちらこそ」

 たったそれだけ。
 余計な言葉はない。

 なのに、心が温かくなる。

 画面を閉じたあと、深く息を吐いた。
 胸の奥に、静かな余韻が残っている。

 まだ、何も始まっていない。
 名前を呼ぶほど近くもない。

 それでも。

 画面の向こうには、ちゃんと“人”がいる。

 それが分かった夜だった。