バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

「あ、ありがとう。僕も気に入ってるんだ、嬉しい」

 少しだけ、声のトーンが上がったのが自分でも分かる。
 思ったより素直な声が出てしまって、内心で焦る。

 それを誤魔化すみたいに、すぐ次の話題に移った。
 ゲームの話。
 いつもの雑談。

 誰も気にしていない、はずだ。
 そう思いながらも、胸の奥が落ち着かない。

 その人は、それ以上何も言わなかった。
 補足もしないし、照れた様子もない。

 褒めて、引く。

 それが、計算じゃないことだけは分かった。
 だからこそ、距離感が、妙に心地よかった。

 配信後。
 いつものように通知を流し見していると、個別のメッセージが届いていた。

 画面に表示された名前を見た瞬間、指が一瞬止まる。

『今日の配信、雰囲気よかった』

 それだけ。

 感想としては、短すぎる。
 具体的でもないし、踏み込んでもいない。

 でも、胸に残る。

 配信中に言われるのとは、少し違う。
 人がいない場所で、わざわざ送ってくる言葉。

『ありがとう。そう言ってもらえると助かる』

 少し考えてから、そう返した。
 重くならないように。
 でも、雑にもならないように。

 返すと、すぐに既読がついた。

『無理は、してない?』

 一瞬、指が止まる。

 画面を見つめたまま、何秒か動けなかった。
 聞かれると思っていなかったわけじゃない。
 でも、実際に聞かれると、答えに困る。

 正直に言えば、している。
 配信も、日常も、全部。

 でも、全部を打ち明けるほどの関係じゃない。
 それに、心配させたいわけでもなかった。

『大丈夫。ちょっと疲れてるだけ』

 少しだけ、本当。
 少しだけ、嘘。

 嘘だと分かっていても、今はこれが精一杯だった。

『そっか。なら、よかった』

 そこで会話は終わった。

 続きを促すこともない。
 無理に励ますこともしない。

 深追いしない。
 踏み込みすぎない。

 それなのに、なぜか安心する。

 画面を閉じたあとも、胸の奥がじんわり温かかった。
 誰かに分かってほしい、という気持ちだけが、静かに満たされていく。

 それからは、時々こうして短いやり取りをするようになった。
 挨拶。
 配信の感想。
 天気の話。

 他愛もない言葉ばかり。
 すぐ終わる会話。

 内容は薄い。
 でも、やり取りが増えるほど、存在は濃くなっていった。