バイバイを書いた夜、君が来た ――あの夜、君の声が僕を繋ぎ止めた

その夜、画面はやけに明るく見えた。

配信を切ったあと、部屋には自分の呼吸の音だけが残る。
 イヤホンを外しても、まだ誰かの声が耳の奥に引っかかっている気がして、しばらく動けなかった。
ぼんやりと、まだつけたままの画面を見つめる。

画面の向こうには、もう誰もいないはずなのに。
 チャット欄が静まり返っているのを見て、ようやく配信が終わったのだと実感する。

 さっきまで、あんなに賑やかだった。
 名前を呼ばれて、笑って、返事をして。
 「楽しかった」「ありがとう」という言葉が、流れるように流れていった。

 それなのに今は、明るすぎる画面と、暗すぎる部屋だけが残っている。

 配信を切るたび、いつも思う。
 
──僕は、ちゃんとここにいるのかな。

 現実の部屋に戻ってきたはずなのに、どこか取り残されたような感覚が抜けない。
 ヘッドホン越しの声のほうが、息遣いよりも近く感じてしまう夜が増えていた。

 イヤホンを外しても、耳の奥がじんと熱い。
 まだ誰かが話しかけてくる気がして、無意識に首を傾けてしまう。

 そんな自分が、少しだけ怖かった。

「……疲れたな」

 独り言が、やけに他人行儀に聞こえた。

最初は、軽い気持ちだった。
どうせすぐ人はいなくなるだろうし、暇つぶしみたいなものだと思っていた。

 でも、画面の向こうに人がいると分かった瞬間から、何かが変わった。
 
返事が返ってくる。
名前を覚えられる。
「また来るね」と言われる。

 それが、想像以上に心に残った。

 嬉しいはずなのに、同時に、どこか不安になる。
 この場所から落ちたら、何も残らないんじゃないか。
 そんな考えが、夜になると勝手に顔を出す。
 
十二月一日に初配信をしてから、気づけばもう二ヶ月が過ぎていた。
 思っていたより早く人が集まり、ありがたいくらい応援ももらっている。それなのに、心だけが置いていかれているような感覚が、ずっと消えなかった。

 推しとのコラボ配信が終わったばかりだった。
 楽しかったはずなのに、胸の奥に残ったのは、どうしようもない空白だった。

 配信者として笑って、視聴者として盛り上がって、夜が来ると一人で落ちる。
 その繰り返しに、もう疲れていた。

 スマホを手に取り、何も考えずにタイムラインを眺める。色んな情報が視界に飛び込んでくる。けど、そのどれもが別世界の出来事のようで。
 
いつものアイコン、いつもの文字列。見慣れた光景。
そこに、ふと「書いてしまってもいいんじゃないか」という気持ちが浮かんだ。