抱えきれないほどの愛に。

ふと、辺りを見渡すと、人が少ない駅前のベンチに影が潜んでいた。


怖いし、早く帰ろうと思い歩き出そうとすると黒い帽子で隠れていた顔がこちらを見た。


……え…?


今の時刻七時半。


まさか……だよね。もうこんな時間だし、きっと人違いだ。


そう思うけれど。


その影はうつむく私に少しずつ近づいてくる。


おもむろに後ろに後ずさりするけれど。



「……こんな時間まで何してたの?」


今までにないくらいの低い声で目の前に映る影がそう零した。


そう、それは…聞きなじみのある声。


何で…ここに…。


帰ったはずで……別れた、はず…で。


「…ねぇ、何してたの?」


急かすような口調が怖くて、顔が上げられない。


それに…っもうようくんに関係ないことだ。


一歩一歩近づいてくる影に後ずさる。



耐えきれなくなった私は反対方向に駆けだそうとしたけれど。


後ろから、強く、強く、強く、抱きしめられる。


いや、もう抱きしめるとは言えなかった。


そんなに優しくなかった。