県立隆台高校3年 桜木健太郎 この辺では有名な?バイク野郎だ。
同じクラスにはみんなからアリスと呼ばれている謎だらけの女の子が居る。 俺はずっと前からその子のことが気になって仕方が無かった。
取り立てて喋るでもなく喋らないでもなく、取り立てて面白いわけでもなく面白くないわけでもない。
いつもアリスは窓の外ばかり見ている。 クラスメートが声を掛けてもたまにしか返事をしないから機嫌が悪いんだと思われている。
そんなアリスとクラスのことで相談したことが有る。 俺が学級委員だった2年の時ね。
「みんなさあ、私をアリスって呼んでるんだよね? 何か嫌だな。」 ポツリと言うもんだから俺はそれが気になって仕方がない。
「住所録を見たってアリスって書いてあるじゃない。 どうして?」 「付きまとわれるのが嫌だからそうしたの。」
「付きまとわれる?」 「うん。 中学の時ね、そういう人が居たのよ。」
アリスはツインテールの髪を揺らして少しだけ俯いた。 俺はその姿にドキッとした。
ただの女子高生なのにどっか女らしい色気を感じてしまったんだ。 その日から俺はアリスのことを真剣に考えるようになった。
夏休みが終わっていつもの二学期が始まった。 修学旅行は去年行ってしまったから後は就職か進学かを決めるだけ。
俺はいつものようにアリスを見守っている。 何とかして謎を解きたくて。
そういえばこれまでアリスの家に行ったやつは居ない。 行きたがってたやつは居るけどアリスが直前に断ったんだって。
何故なんだろう? ふつうの高校生なら問題は無いはずなのに。
今日も一番後ろの机でアリスは静かに笑っている。 その笑顔に魅かれるやつは多い。
でもなぜか付き合おうとすると必ず断ってくるんだ。 押し切ろうとしてもそれは変わらない。
「誰か言い名付けでも居るんじゃないのか?」 そう話し合っているやつも居る。
でもそんな風にも見えないんだよな。 堅苦しいお嬢様にも見えないんだ。
じゃあ何がアリスを? 俺はそればかり考えているんだ。
なのに何も浮かんでこない。 どうしてなんだろう?
勉強する姿もふつうだし、給食を頬張っている姿もふつうだし何もおかしなところは無い。
それなのになぜかみんなは謎めいた女の子だと思っている。 なぜだろう?
9月も終わりに近づいた金曜日の午後、不意にアリスが話し掛けてきた。
「桜木君 付き合ってる子は居るの?」 とっさに聞かれて俺は迷っちまった。
好きな子は居る。 付き合いたいって思った子も居る。
もちろんアリスだってその一人だ。 でも面と向かって聞かれたら何て言えばいいのか分からない。
「そう思った子は居るよ。 でも誰にも言えなくてね。」 そう笑うのが精一杯だった。
「そうなんだね。 私はどうかなあ?」 「アリス?」
「うん。 桜木君みたいに守ってくれる人ならいいかなって思って。」 (願ったり叶ったりじゃないか。)
俺は一瞬そう飛び上がりそうになったけどミーハーに見られるのが嫌だからグッと抑えている。
「俺なんかでいいの?」 「ぜひ。」
「分かった。 でもびっくりするんじゃないかなあ?」
「何で?」 「俺さあこの辺じゃ有名な暴走族だから。」
「そんな風には見えないなあ。」 「週末何て辺り構わず飛ばしてるんだよ。 それでもいいの?」
「私、今までの桜木君を見てきたからいいなって思ったの。」 「他にも居たんじゃ?」
「ずっと見てきたんだけどみんな期待外れだった。」 「期待外れ?」
「そう。 自分のことしか考えてないんだもん。」 「そうか。」
話していたら見回りの先生がやってきた。 「何だ、まだ居たのか? 閉じ込められないうちに帰るんだぜ。」
「はーーい。」 そう言って時計を見る。
昇降口が閉まるのは5時半。 まだ30分以上有る。
それで俺は謎の一つを聞いてみることにした。 「アリスさ、ほんとの名前は何?」
アリスが一瞬、表情を曇らせたのがよく分かる。 これまで親友も持たずに名前も明かさずにここまで来たんだから。
「話してもいいの?」 「構わないよ。 俺は誰にも話さないから。」
そこまで言ったんだけどアリスは「決心できない。」って言って黙ってしまった。 そのままで静かに時間が流れていく。
5時のチャイムが聞こえた。 「そろそろ出ようか。」
「そうね。 遅くなると閉じ込められちゃうし。」 「俺は無いけどアリスは有るの?」
「私さあ、いつだったか6時間目が終わったら寝ちゃって閉じ込められたことが有るのよ。」 そう言って初めてアリスは笑った。
「寝ちゃって閉じ込められた、、、か。 やるもんだなあ。」 夕暮れの廊下を歩いていく。
秋の夕日が長くなり始めていた。 こうなるとどっか寂しいんだよなあ。
特に昇降口は東向きだから暗くてよく見えないんだよなあ。 何とかしてほしいのに。
アリスはスマホのライトを使って辺りを照らしながら歩いている。 俺に気を使ってくれてるんだな。
他にも女の子は居るけどアリスと話せたことがなんか嬉しくて特別なことのように思えている。 これまでも話すチャンスは有ったはずなのに。
靴を履き替えて昇降口を出る。 二人の陰が長く伸びている。
「秋だねえ。」 「桜木君は秋好きなの?」
「好きだよ。 どっか寂しいけどさ。」 「私は春のほうがいいなあ。」
「春ねえ。 いろんな花も咲き始めるしいいよね。」 校門を出てアリスは右へ、俺は左へ歩いていく。
「明日もまた話そうね。」 「うん。 じゃあさよなら。」
アリスが角を曲がるまで見送ってみる。 初めてだな。
今まで誰にもこんなことしなかったのに。
次の日も俺たちは放課後の教室に残って他愛も無い話を続けていた。 静かな静かな教室で。
時には進路指導室に呼ばれて進学なのか就職なのか決断を迫られることも有る。 俺もアリスもまだまだ決められないでいた。
「どうするんだよ? そろそろ動かないと進学じゃ間に合わないんだぞ。」 「それはそうですけど、、、。」
「来週から就職相談の面接も始める。 どっちつかずじゃ困るんだよ。 決めてくれ。」
先生もイライラしているみたい。 そんな日もアリスと二人で教室に残っている。
「桜木君はどうするの?」 「まだ決められないんだ。 どうしたらいいか分からなくて。」
「私もなのよ。 進学するには頭が足りないし働くには自信が無いし。」 「似た者同士なんだね。 あはは。」
「そうだね。 似た者同士か。 初めてだな。」 いつになくアリスも機嫌がいいみたい。
「今度の日曜日、山下川の河川敷に来ない?」 「何か有るの?」
「うちのグループが解散するから最後に思い切り走ろうってことになったんだ。」 「面白そう。」
「もちろん、煽ったり喧嘩したりするのは無しだよ。 俺たちのグループはそんなんじゃないから。」 「レーサーみたいだね。」
「そう。 本当に走りたくて集まってきた連中なんだ。」 「何時から?」
『日曜日は午後2時からだよ。 いつもは夜なんだけどさ、ぶっ飛ばすから昼間のほうがいいだろうってことになって。」 「行けそうなら行くよ。 行けなかったらごめんね。」
「いいよ。」 俺は何か吹っ切れた気がした。
いつものように昇降口で靴を履き替えて校門を出る。 そしたらアリスが付いてきた。
「え?」 「びっくりした?」
「うん。」 「桜木君には名前を覚えてもらいたいなと思って。」
やっと決心が付いたんだって。 アリスはメモを取り出した。
安塚楓。 そこにはそう書かれていた。
「楓化。 可愛いじゃん。」 「そう思ってくれる?」
「これは俺だけの秘密ね?」 「うん。」
楓が頷いたのを見届けてから俺は背中を向けた。 何だか俺の気持ちが伝わったようで嬉しくなってきた。
あと半年も無いんだ。 少しでもエンジョイしたいな。
そして日曜日になった。 山下川に掛かる村上橋の下に俺たちは集まった。
総勢15人の小さな?族のバイクが並んだ。 ギャラリーもさっきから始まるのを待っている。
松岡太一がエンジンを吹かした。 「いいか。 俺たちは今日で解散する。 最後の最後まで煽りも喧嘩も無く静かに消えようぜ!」
「オー!」 俺たちは一斉にアクセルを握った。
松岡は二十歳。 今は建設会社で働いている。 バイクを買ってもらった時に走りたくて族を結成したという。
ファイヤードラゴンなんてどっか怖そうな名前だが煽りも喧嘩も禁止。 警察に捕まるのも禁止。
何となく面白くないような面白いようなそんな連中が集まってきて毎週走ってたんだ。 河川敷でエンジンを唸らせて走っていると土手の上に見慣れた顔が有るのに俺は気付いた。
「楓、来てくれたんだな。」 「桜木君 見に来たよ‼」
本当はね、すごく心配してたんだ。 これまで話したこともろくに無いのにいきなり誘った族の解散式になんか来るのかな?って。
でも今日、楓は来てくれた。 俺が走ってるのをしっかりと見届けてくれた。
これでまた楓と一歩近付けた気がするな。 俺はそう思った。
月曜日、放課後の教室で俺と楓はまたまた話し込んでいる。 いつものように他愛も無い話を。
アイドルの押しは誰かとか、どんな食べ物が好きかとか、コーヒーと紅茶ではどっちが好きかとか、、、。 楓はそれでもやっと話が出来るようになったなって感じなんだ。
高校に入学して2年半。 俺だってやっと楓と話せるようになった。 でも家族の話になると楓は急に黙りこくってしまう。
特にお父さんについては何も話したがらない。 (そうか。 お父さんがネックになってるんだ。)
担任が面談の話をしても「親は忙しいから来れません。」とだけ答えているんだから前から気にはなっていた。
「楓さあ、フリーダムアローってグループ知ってる?」 「ああ、最近話題のバンドね。」
「俺さあ、あのドラムが好きなんだよ。」 「そうなの? そう言えばなんかズシーンとくる響きが有るなって思ってた。」
「最近のドラムはキンキンコンコン響いてどうも嫌いなんだ。 でもあのドラムは違うよね。」 「桜木君もハードロックが好きなの?」
「好きかどうかは分からないけどいいなって思ってる。」 「そっか。 私は17番街が好きだなあ。」
窓の外は前より少し夕暮れが速くなった気がする。 暗くなるのが速く感じるんだ。
「早めに出ようか。 暗くなるの速そうだから。」 「そうね。」
廊下はもう暗くなってる。 何となく寂しい雰囲気がして好きなんだけど、、、。
楓はまたまたスマホのライトを使って前を照らしてくれている。 階段はさらに暗くなっている。
「いやあ、ここまで暗いと怖いなあ。 何か出てきそうで。」 「何かって何ですか?」
「狼男とかドラキュラとかさあ、、、。」 「嫌だなあ。 私妖怪は嫌いです。」
「そうなの?」 「あんな気味悪い生き物は居なくていいわ。」
「オー、まだ居たのか。 暗くなってきたから早く帰るんだぞ。」 「はーい。」
見回りの吉村先生が俺たちに声を掛けてきた。 いつものことなんだけどなあ。
昇降口に来るといつものように靴を履き替える。 グラウンドのほうから元気のいい声が聞こえている。
陸上部の連中だ。 そろそろ駅伝シーズンだから張り切ってるらしい。
県大会じゃあそこそこなんだよな。 そろそろ優勝してほしいんだけど。
校門の所にまで来ると楓は俺のほうに向きなおった。 「何?」
「桜木君 今日も話せて良かった。 明日もよろしくね。」 改まった顔で言ってくるもんだから俺は何だか恥ずかしくなっちまった。
「いいよいいよ。 そんなに畏まらなくても。」 「何かさあ、急に話せるようになったから申し訳なくて。」
「いいんだってば。 他のやつとはずっと前からうるさいくらいに喋ってきたんだから。」 「いいの?」
「心配するな。 楓は一番大事な人だよ。」 「ありがとね。 桜木君。」
俺は初めて楓の頭を撫でてみた。 今まで誰にもこんなことやったことが無いのに。
「じゃあ行くね。 明日もよろしく。」 歩いていく楓の後姿を見送る。
(もしかして俺って楓のことが好きなのかな?) 盛り上がるたびにそんなことを考える。
顔すらまともに見たことは無かったのに、こんな気持ちになるなんて、、、。 どうかしてるよな。
同じクラスにはみんなからアリスと呼ばれている謎だらけの女の子が居る。 俺はずっと前からその子のことが気になって仕方が無かった。
取り立てて喋るでもなく喋らないでもなく、取り立てて面白いわけでもなく面白くないわけでもない。
いつもアリスは窓の外ばかり見ている。 クラスメートが声を掛けてもたまにしか返事をしないから機嫌が悪いんだと思われている。
そんなアリスとクラスのことで相談したことが有る。 俺が学級委員だった2年の時ね。
「みんなさあ、私をアリスって呼んでるんだよね? 何か嫌だな。」 ポツリと言うもんだから俺はそれが気になって仕方がない。
「住所録を見たってアリスって書いてあるじゃない。 どうして?」 「付きまとわれるのが嫌だからそうしたの。」
「付きまとわれる?」 「うん。 中学の時ね、そういう人が居たのよ。」
アリスはツインテールの髪を揺らして少しだけ俯いた。 俺はその姿にドキッとした。
ただの女子高生なのにどっか女らしい色気を感じてしまったんだ。 その日から俺はアリスのことを真剣に考えるようになった。
夏休みが終わっていつもの二学期が始まった。 修学旅行は去年行ってしまったから後は就職か進学かを決めるだけ。
俺はいつものようにアリスを見守っている。 何とかして謎を解きたくて。
そういえばこれまでアリスの家に行ったやつは居ない。 行きたがってたやつは居るけどアリスが直前に断ったんだって。
何故なんだろう? ふつうの高校生なら問題は無いはずなのに。
今日も一番後ろの机でアリスは静かに笑っている。 その笑顔に魅かれるやつは多い。
でもなぜか付き合おうとすると必ず断ってくるんだ。 押し切ろうとしてもそれは変わらない。
「誰か言い名付けでも居るんじゃないのか?」 そう話し合っているやつも居る。
でもそんな風にも見えないんだよな。 堅苦しいお嬢様にも見えないんだ。
じゃあ何がアリスを? 俺はそればかり考えているんだ。
なのに何も浮かんでこない。 どうしてなんだろう?
勉強する姿もふつうだし、給食を頬張っている姿もふつうだし何もおかしなところは無い。
それなのになぜかみんなは謎めいた女の子だと思っている。 なぜだろう?
9月も終わりに近づいた金曜日の午後、不意にアリスが話し掛けてきた。
「桜木君 付き合ってる子は居るの?」 とっさに聞かれて俺は迷っちまった。
好きな子は居る。 付き合いたいって思った子も居る。
もちろんアリスだってその一人だ。 でも面と向かって聞かれたら何て言えばいいのか分からない。
「そう思った子は居るよ。 でも誰にも言えなくてね。」 そう笑うのが精一杯だった。
「そうなんだね。 私はどうかなあ?」 「アリス?」
「うん。 桜木君みたいに守ってくれる人ならいいかなって思って。」 (願ったり叶ったりじゃないか。)
俺は一瞬そう飛び上がりそうになったけどミーハーに見られるのが嫌だからグッと抑えている。
「俺なんかでいいの?」 「ぜひ。」
「分かった。 でもびっくりするんじゃないかなあ?」
「何で?」 「俺さあこの辺じゃ有名な暴走族だから。」
「そんな風には見えないなあ。」 「週末何て辺り構わず飛ばしてるんだよ。 それでもいいの?」
「私、今までの桜木君を見てきたからいいなって思ったの。」 「他にも居たんじゃ?」
「ずっと見てきたんだけどみんな期待外れだった。」 「期待外れ?」
「そう。 自分のことしか考えてないんだもん。」 「そうか。」
話していたら見回りの先生がやってきた。 「何だ、まだ居たのか? 閉じ込められないうちに帰るんだぜ。」
「はーーい。」 そう言って時計を見る。
昇降口が閉まるのは5時半。 まだ30分以上有る。
それで俺は謎の一つを聞いてみることにした。 「アリスさ、ほんとの名前は何?」
アリスが一瞬、表情を曇らせたのがよく分かる。 これまで親友も持たずに名前も明かさずにここまで来たんだから。
「話してもいいの?」 「構わないよ。 俺は誰にも話さないから。」
そこまで言ったんだけどアリスは「決心できない。」って言って黙ってしまった。 そのままで静かに時間が流れていく。
5時のチャイムが聞こえた。 「そろそろ出ようか。」
「そうね。 遅くなると閉じ込められちゃうし。」 「俺は無いけどアリスは有るの?」
「私さあ、いつだったか6時間目が終わったら寝ちゃって閉じ込められたことが有るのよ。」 そう言って初めてアリスは笑った。
「寝ちゃって閉じ込められた、、、か。 やるもんだなあ。」 夕暮れの廊下を歩いていく。
秋の夕日が長くなり始めていた。 こうなるとどっか寂しいんだよなあ。
特に昇降口は東向きだから暗くてよく見えないんだよなあ。 何とかしてほしいのに。
アリスはスマホのライトを使って辺りを照らしながら歩いている。 俺に気を使ってくれてるんだな。
他にも女の子は居るけどアリスと話せたことがなんか嬉しくて特別なことのように思えている。 これまでも話すチャンスは有ったはずなのに。
靴を履き替えて昇降口を出る。 二人の陰が長く伸びている。
「秋だねえ。」 「桜木君は秋好きなの?」
「好きだよ。 どっか寂しいけどさ。」 「私は春のほうがいいなあ。」
「春ねえ。 いろんな花も咲き始めるしいいよね。」 校門を出てアリスは右へ、俺は左へ歩いていく。
「明日もまた話そうね。」 「うん。 じゃあさよなら。」
アリスが角を曲がるまで見送ってみる。 初めてだな。
今まで誰にもこんなことしなかったのに。
次の日も俺たちは放課後の教室に残って他愛も無い話を続けていた。 静かな静かな教室で。
時には進路指導室に呼ばれて進学なのか就職なのか決断を迫られることも有る。 俺もアリスもまだまだ決められないでいた。
「どうするんだよ? そろそろ動かないと進学じゃ間に合わないんだぞ。」 「それはそうですけど、、、。」
「来週から就職相談の面接も始める。 どっちつかずじゃ困るんだよ。 決めてくれ。」
先生もイライラしているみたい。 そんな日もアリスと二人で教室に残っている。
「桜木君はどうするの?」 「まだ決められないんだ。 どうしたらいいか分からなくて。」
「私もなのよ。 進学するには頭が足りないし働くには自信が無いし。」 「似た者同士なんだね。 あはは。」
「そうだね。 似た者同士か。 初めてだな。」 いつになくアリスも機嫌がいいみたい。
「今度の日曜日、山下川の河川敷に来ない?」 「何か有るの?」
「うちのグループが解散するから最後に思い切り走ろうってことになったんだ。」 「面白そう。」
「もちろん、煽ったり喧嘩したりするのは無しだよ。 俺たちのグループはそんなんじゃないから。」 「レーサーみたいだね。」
「そう。 本当に走りたくて集まってきた連中なんだ。」 「何時から?」
『日曜日は午後2時からだよ。 いつもは夜なんだけどさ、ぶっ飛ばすから昼間のほうがいいだろうってことになって。」 「行けそうなら行くよ。 行けなかったらごめんね。」
「いいよ。」 俺は何か吹っ切れた気がした。
いつものように昇降口で靴を履き替えて校門を出る。 そしたらアリスが付いてきた。
「え?」 「びっくりした?」
「うん。」 「桜木君には名前を覚えてもらいたいなと思って。」
やっと決心が付いたんだって。 アリスはメモを取り出した。
安塚楓。 そこにはそう書かれていた。
「楓化。 可愛いじゃん。」 「そう思ってくれる?」
「これは俺だけの秘密ね?」 「うん。」
楓が頷いたのを見届けてから俺は背中を向けた。 何だか俺の気持ちが伝わったようで嬉しくなってきた。
あと半年も無いんだ。 少しでもエンジョイしたいな。
そして日曜日になった。 山下川に掛かる村上橋の下に俺たちは集まった。
総勢15人の小さな?族のバイクが並んだ。 ギャラリーもさっきから始まるのを待っている。
松岡太一がエンジンを吹かした。 「いいか。 俺たちは今日で解散する。 最後の最後まで煽りも喧嘩も無く静かに消えようぜ!」
「オー!」 俺たちは一斉にアクセルを握った。
松岡は二十歳。 今は建設会社で働いている。 バイクを買ってもらった時に走りたくて族を結成したという。
ファイヤードラゴンなんてどっか怖そうな名前だが煽りも喧嘩も禁止。 警察に捕まるのも禁止。
何となく面白くないような面白いようなそんな連中が集まってきて毎週走ってたんだ。 河川敷でエンジンを唸らせて走っていると土手の上に見慣れた顔が有るのに俺は気付いた。
「楓、来てくれたんだな。」 「桜木君 見に来たよ‼」
本当はね、すごく心配してたんだ。 これまで話したこともろくに無いのにいきなり誘った族の解散式になんか来るのかな?って。
でも今日、楓は来てくれた。 俺が走ってるのをしっかりと見届けてくれた。
これでまた楓と一歩近付けた気がするな。 俺はそう思った。
月曜日、放課後の教室で俺と楓はまたまた話し込んでいる。 いつものように他愛も無い話を。
アイドルの押しは誰かとか、どんな食べ物が好きかとか、コーヒーと紅茶ではどっちが好きかとか、、、。 楓はそれでもやっと話が出来るようになったなって感じなんだ。
高校に入学して2年半。 俺だってやっと楓と話せるようになった。 でも家族の話になると楓は急に黙りこくってしまう。
特にお父さんについては何も話したがらない。 (そうか。 お父さんがネックになってるんだ。)
担任が面談の話をしても「親は忙しいから来れません。」とだけ答えているんだから前から気にはなっていた。
「楓さあ、フリーダムアローってグループ知ってる?」 「ああ、最近話題のバンドね。」
「俺さあ、あのドラムが好きなんだよ。」 「そうなの? そう言えばなんかズシーンとくる響きが有るなって思ってた。」
「最近のドラムはキンキンコンコン響いてどうも嫌いなんだ。 でもあのドラムは違うよね。」 「桜木君もハードロックが好きなの?」
「好きかどうかは分からないけどいいなって思ってる。」 「そっか。 私は17番街が好きだなあ。」
窓の外は前より少し夕暮れが速くなった気がする。 暗くなるのが速く感じるんだ。
「早めに出ようか。 暗くなるの速そうだから。」 「そうね。」
廊下はもう暗くなってる。 何となく寂しい雰囲気がして好きなんだけど、、、。
楓はまたまたスマホのライトを使って前を照らしてくれている。 階段はさらに暗くなっている。
「いやあ、ここまで暗いと怖いなあ。 何か出てきそうで。」 「何かって何ですか?」
「狼男とかドラキュラとかさあ、、、。」 「嫌だなあ。 私妖怪は嫌いです。」
「そうなの?」 「あんな気味悪い生き物は居なくていいわ。」
「オー、まだ居たのか。 暗くなってきたから早く帰るんだぞ。」 「はーい。」
見回りの吉村先生が俺たちに声を掛けてきた。 いつものことなんだけどなあ。
昇降口に来るといつものように靴を履き替える。 グラウンドのほうから元気のいい声が聞こえている。
陸上部の連中だ。 そろそろ駅伝シーズンだから張り切ってるらしい。
県大会じゃあそこそこなんだよな。 そろそろ優勝してほしいんだけど。
校門の所にまで来ると楓は俺のほうに向きなおった。 「何?」
「桜木君 今日も話せて良かった。 明日もよろしくね。」 改まった顔で言ってくるもんだから俺は何だか恥ずかしくなっちまった。
「いいよいいよ。 そんなに畏まらなくても。」 「何かさあ、急に話せるようになったから申し訳なくて。」
「いいんだってば。 他のやつとはずっと前からうるさいくらいに喋ってきたんだから。」 「いいの?」
「心配するな。 楓は一番大事な人だよ。」 「ありがとね。 桜木君。」
俺は初めて楓の頭を撫でてみた。 今まで誰にもこんなことやったことが無いのに。
「じゃあ行くね。 明日もよろしく。」 歩いていく楓の後姿を見送る。
(もしかして俺って楓のことが好きなのかな?) 盛り上がるたびにそんなことを考える。
顔すらまともに見たことは無かったのに、こんな気持ちになるなんて、、、。 どうかしてるよな。


