リージョンR、J市。
そこは高台になった丘の上に立つ墓地の一角。
墓地には古い墓と新しい墓がひしめき合うように建てられていた。
「ここがヒロトの……墓?」
Mathewとトオル、セキジとでもう一度訪れたJ市。
白百合を抱えたユイとMathewは、トオルの案内でヒロトの墓に到着する。
「ああ」
ヒロトの墓地にはスズランの花が添えられてあった。
叔母のエレナが、少し前に墓参りに来たのかもしれない。
ここに墓があるという事実を、ユイは最後まで認めたくなかった。
正方形の墓石には、カザム教の刻印が刻まれている。
それは見たこともない不思議な形をしていた。
「どうしてここに墓があると分かったの?」
トオルから“ヒロトの墓がある”と聞いたときから不思議に思っていた疑問だった。
墓石を見つめたまま、トオルは沈黙を続ける。
「オレさ、人生で一番やっちゃいけないことをした。だから分かったんだ」
事の発端は数日前に戻る。
あれはユイがミカゲと一緒に報道会見を行った翌日だった。
トオルはその日、非番だった。
昨晩レイラはトオルの部屋で一夜を明かし、早朝に帰って行った。
夜を共にするのは初めてではなかったふたり。
これまで以上に二人が愛を確認し合った証のように、ベッドにはレイラの携帯端末が残されていた。
トオルはすぐにレイラに知らせようと思った。
けれどもその携帯に届いたのは、見知らぬ男性の名前と通信メッセージだった。
端末には何故かロックがされておらず、トオルが見ようと思えば中を見ることは可能だった。
「まさか、レイラの携帯端末のデータを……見たの?」
トオルは何も言わない。
ただユイを見つめる目は、哀しみに満ち溢れていた。
「ここから先はユイさんが知るべきではないかもしれない……」
「……受け止める覚悟はあるよ」
トオルは、嫉妬心からその誘惑に負けてしまった。
そして通信履歴の中は男性の名前で溢れていた。
中でも『ヒロト・セナ・リーシェン』という名前に、トオルは衝撃を受ける。
通信は全て文字通信だった。
最後にレイラが返信したのは、一年以上前だ。
『一時間後、リージョンRのフィレシア・ホテルで待つ』
信じたくなかった。
ふたりの間に何が起こったのかも考えたくもなかった。
しかし気が付けばトオルはその履歴を全て確認していた。
レイラは、ある人物と頻繁に連絡を取っている。
相手の名前は『グレン・ハン・グラゼル』。アゼレウス社の社長秘書だ。
休日のたびに頻繁にリージョンRでレンタカーを借りていること。
三か月前に通販で“妊娠検査薬”を購入していたこと。
そして最も信じたくなかったことは。
産院の定期受診予約の通知だった。
―*―
ユイはトオルに確認してもらいたいモノがあると告げた。
それはMathewが掴んだ矢についていた走り書きの文字。
トオルはその文章のつづりを見た途端、顔色を変えた。
その反応が全てを物語っていたし、もうそれで十分だった。
Mathewは一つだけユイに告げなかった。
使われている赤いインクにはあの消臭剤が使われていることを。
「セキジ。調べてくれる?」
「グレン・ハン・グラゼル様、でございますね」
「……ええ。それからレイラ・リード・リゼルという女性も」
「かしこまりました」
以前のユイであったなら、相当なショックを受けただろう。
それでも冷静な判断を下せるほどに、ユイは成長した。
そんな姿をいつまでも見ていたいと、Mathewは思った。
そこは高台になった丘の上に立つ墓地の一角。
墓地には古い墓と新しい墓がひしめき合うように建てられていた。
「ここがヒロトの……墓?」
Mathewとトオル、セキジとでもう一度訪れたJ市。
白百合を抱えたユイとMathewは、トオルの案内でヒロトの墓に到着する。
「ああ」
ヒロトの墓地にはスズランの花が添えられてあった。
叔母のエレナが、少し前に墓参りに来たのかもしれない。
ここに墓があるという事実を、ユイは最後まで認めたくなかった。
正方形の墓石には、カザム教の刻印が刻まれている。
それは見たこともない不思議な形をしていた。
「どうしてここに墓があると分かったの?」
トオルから“ヒロトの墓がある”と聞いたときから不思議に思っていた疑問だった。
墓石を見つめたまま、トオルは沈黙を続ける。
「オレさ、人生で一番やっちゃいけないことをした。だから分かったんだ」
事の発端は数日前に戻る。
あれはユイがミカゲと一緒に報道会見を行った翌日だった。
トオルはその日、非番だった。
昨晩レイラはトオルの部屋で一夜を明かし、早朝に帰って行った。
夜を共にするのは初めてではなかったふたり。
これまで以上に二人が愛を確認し合った証のように、ベッドにはレイラの携帯端末が残されていた。
トオルはすぐにレイラに知らせようと思った。
けれどもその携帯に届いたのは、見知らぬ男性の名前と通信メッセージだった。
端末には何故かロックがされておらず、トオルが見ようと思えば中を見ることは可能だった。
「まさか、レイラの携帯端末のデータを……見たの?」
トオルは何も言わない。
ただユイを見つめる目は、哀しみに満ち溢れていた。
「ここから先はユイさんが知るべきではないかもしれない……」
「……受け止める覚悟はあるよ」
トオルは、嫉妬心からその誘惑に負けてしまった。
そして通信履歴の中は男性の名前で溢れていた。
中でも『ヒロト・セナ・リーシェン』という名前に、トオルは衝撃を受ける。
通信は全て文字通信だった。
最後にレイラが返信したのは、一年以上前だ。
『一時間後、リージョンRのフィレシア・ホテルで待つ』
信じたくなかった。
ふたりの間に何が起こったのかも考えたくもなかった。
しかし気が付けばトオルはその履歴を全て確認していた。
レイラは、ある人物と頻繁に連絡を取っている。
相手の名前は『グレン・ハン・グラゼル』。アゼレウス社の社長秘書だ。
休日のたびに頻繁にリージョンRでレンタカーを借りていること。
三か月前に通販で“妊娠検査薬”を購入していたこと。
そして最も信じたくなかったことは。
産院の定期受診予約の通知だった。
―*―
ユイはトオルに確認してもらいたいモノがあると告げた。
それはMathewが掴んだ矢についていた走り書きの文字。
トオルはその文章のつづりを見た途端、顔色を変えた。
その反応が全てを物語っていたし、もうそれで十分だった。
Mathewは一つだけユイに告げなかった。
使われている赤いインクにはあの消臭剤が使われていることを。
「セキジ。調べてくれる?」
「グレン・ハン・グラゼル様、でございますね」
「……ええ。それからレイラ・リード・リゼルという女性も」
「かしこまりました」
以前のユイであったなら、相当なショックを受けただろう。
それでも冷静な判断を下せるほどに、ユイは成長した。
そんな姿をいつまでも見ていたいと、Mathewは思った。
