08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~

 ユイとミカゲの記者会見が始まってすぐ、異変は起きた。
 セキジは突如現れたドローンの対処に追われていた。
 一方でミオンは仲間たちと共に会場の死角からの攻撃の処理に当たっていた。
 誰がいつの間に設置したのか、矢を放つ小型装置が天井に着けられていたのだ。
 
 最後の小型装置を破壊した瞬間、堂々と正面から矢を放つ人物が居た。
 つまり最初からこの装置は囮でしかなかったのだ。
 その矢を放った人物は取り押さえられる瞬間、何かを飲み込んだ。

「神を穢す女王などけっして認めない! ”聖なる希望”(グライゼル)万歳!」

 そうして、その場に倒れ息を引き取った。
 肉体の総てを猛毒に冒されたその遺体からは何も得ることが出来なかったが、
 この人物がリージョンKからの旅客機でセントラルに来た事実が判明する。

 世界は揺れた。
 あの3月15日で失われたはずの過激派組織グライゼルが再起動を始めたのだ。
 
 ユイとミカゲの“愛の力”で暴走を始めたグライゼルを止められるのか。
 グライゼルの“主張”(ぼうりょく)に屈するのか。

 世界の人々はユイとミカゲが掲げた理念が何たるかより、この単純な戦いに着目した。
 それは賛否両論だった。

 皮肉なことに、この事件は長く続いたリージョンKの宗教戦争を停戦の方向へ向かわせた。
 それが本当に良かったのかどうか、ユイには判断がつかない。
  
 理想を掲げて散った全ての人々の鎮魂を願う式典で、ひとりの老婆が涙を流してユイに向かってこう告げた。 

「貴女がもし世界を大きく変えようとしているのなら、どうか当たり前の幸せをください。誰も生きることを脅かされず、人生を謳歌して死んでいけるような……」

 護衛たちに阻まれた老婆に、ユイは告げる。

「私が、世界の”四葉のクローバー”になります」

 リージョンKにおいて四葉のクローバーは“平和の象徴”だ。
 ユイの言葉に、数多くの市民が泣き崩れた。
 その嗚咽が瓦礫と廃墟で埋め尽くされた町に木霊する。
  
 そんなユイの言葉が世界に拡散される。
 巷に“四葉のクローバー”を模した商品が出回った。
 人々はそれをユイの象徴としたのだった。