08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~

 リージョンN、H市。カイドウ家の大病院。
 緑豊かな中庭。
 水飛沫を空に向かって押し上げる噴水。
 ーーそこは光射す穏やかで優しい中庭。
 
 初めて彼女に会った時、ユイは彼女が怖かった。
 銀色の髪は、"あの時"を思い出してしまうから。

 同じ時間、同じ場所で4度目に会った時、
 ユイは彼女に名前を聞いた。

「わたくしは……レイ……」

 小さな、消えてしまうような声。
 レイは、幼馴染みのレイラによく似ていた。
 髪や目の色が違うだけで、うり二つといってもよかった。
 だから怖いとはいえ、彼女が気になったのかもしれない。
 この綺麗なお人形のような少女が笑った時の顔が。

「あなたは?」
「ユイ、だよ」

 ユイがそう答えた時、レイの紫が大きく揺れた。
 そして泣きそうな声で、

「……ごめんなさい」

 と繰り返す。
 それが何を指すのか、ユイにはわからない。
 ただ哀しそうに、苦しそうに、言葉を絞り出していた。
 ユイはレイも自分と同じなのだろうかと思った。

 ーーユイとレイ。
 
 名前が似ているだけではなく、抱える苦しみがあるのも一緒のような気がした。

「友達になろうよ」

 気がつくとユイはそう言っていた。
 たったそれだけなのに、レイは泣き出した。
 正直、驚きはした。
 しかしどれほど辛い目にあったのだろうか、
 そう思ったらユイも涙が止まらなくなった。
 2人並んで声をあげ、ただ泣いた。
 レイは言った。
 
「わたくし、ユイとお友達になりたい」

 お互い涙でくしゃくしゃな顔、
 それでも不器用に笑い合った。
 リージョンNでは昔から、ふたりで約束をする時、お互いの小指を絡める風習があった。
 ユイとレイがこの風習で誓ったのはたった一つだ。

「大人になってもずっと友達でいよう」

 レイ曰く、子供の頃の友情は大人になっても続くことは稀だという。
 だからこそこの友情が壊れることなく続きますように、と。
 その願いはしっかりとユイの心に刻まれた。

 レイと中庭で会うようになってから7日目。
 レイは『もう会えないかもしれない』と告げた。
 それを聞いたユイは、

 ”四葉のクローバーを一緒に探そう”

 そう、提案する。
 ユイはレイの四葉のクローバーを探し、レイはユイの四葉のクローバーを探した。

 中庭を歩き回る2人。
 程なく、ユイはレイの四葉のクローバーをすぐに見つけ、レイに渡した。

 しかし、レイの方は一向にみつからない。
 病院内の探せる場所はほとんど探した。
 そのうち見つかるよとユイは気にしていない素振りを見せた。
 しかしレイは「もう時間がないの」と悲しそうに言うのだ。
 ユイはレイが退院する日が近いのだろうと思った。
 ただユイはレイを安心させたかった。

「約束を思い出せるなら、なんでもいいの。大事なのはモノじゃない」

 そして翌日。レイは、二つのクローバーをもってきた。
 一つは、ユイがレイに送った四つ葉のクローバー。クリスタルに封じ込められている。
 そして、もう一つはその四つ葉のクローバーを複製したレプリカだ。

 それがユイの四葉のクローバーになる。
 中庭で見つけた本物と、それを複製した偽物ーーいや。
 重要なのはそこではない。
 二人にとって、それが互いに相手を想ってのものであること。
 そしてそれが、まぎれもなく“友情の証”だということ。

 会えなくなっても私達は。

 ーー友だ。

 ―*―
 これがユイにとってレイとの思い出のすべて。
 レイから四葉のクローバーを貰った翌日、ユイは退院することになった。
 レイに別れの挨拶をと思ったのにあの中庭を訪れても、もうレイには会えなかった。
 看護師に聞いても、この病院に銀髪の少女の患者は居ないと言う。

 儚く目の前から消えてしまったレイ。
 ユイにとってレイは大事な友達だったはずなのに、
 いつしかユイはレイを忘れてしまっていた。
 銀髪のルシー・フェルドの存在と共に。

 置き去りにした時間を取り戻した今は、確信がある。

「また、会える」

 そう思うのは、ユイの願いでもある。
 偽物の四葉のクローバー。
 ユイにとっては、それは今でも壊れることのない”友情の象徴”なのだ。