08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~

 リージョンN、H市。アゼレウス支社内、会議室。
 ここには責任者だけが集う場となった。

 メンバーはユイを迎えに来たカイドウ家当主タクマ・キア・カイドウ。
 アゼレウス社長アレン・リード・レゼル。
 そしてアゼロン・カンパニーの社長であるミカゲ・カイ・マガミ。

 会議室は円卓になっており、北の位置にミカゲが相変わらずの姿勢で座っている。
 そんな若者の姿勢に眉を顰めたタクマが西の位置に座り、東の位置には大き目の椅子に座るユイ。
 南の位置には、アレンが座った。

 司会を務めるのはアゼレウス支部長だ。
 彼はまず被害者の報告から行った。
 
「今回の事件で軽症者が数名でましたが、死者・重症者は居ません。カイドウ家の護衛の方による的確な指示で、第4倉庫付近で作業していた従業員はほぼ避難済みだったのが大きいです」

 その報告にユイは安堵した様子を見せた。
 安心した感情がお腹のユーリにも伝わったのか、小さな反応があった。

「次に建物の被害報告です。第4倉庫が爆破された為、リペア用の旧型AIドールの部品と、資材が消失しました。爆破前にアゼロン社とアゼレウス社によりルシー・フェルドの搬送が完了していた為、第4倉庫の被害はこれだけです」
 
 この報告を受けて、アレンは眼鏡の端を少しだけ上に動かした。
 それをタクマはチラリと一瞥し、腕組みをしたまま目を閉じた。
 
「現在、判明している報告は以上になります」

 支部長の報告が終わると、アレンが穏やかな声で声を掛けた。

「ありがとう……。君も疲れただろう、下がっていい」

 支部長は円卓のメンバーに深々と礼をした後、退出する。
 重たい沈黙が数秒流れた後、ミカゲは両肘をテーブルにつけ、両手を組んだ。

「もうわかってると思うけど、この騒ぎは過激派組織グライゼルの仕業さ」

 と宣言した上で、ミカゲは今回の騒ぎで実際には存在した死者を5人と断定した。
 重苦しい空気が流れる中、更に伝えられた事実があった。
 その死者の中には、15歳前後の少年も混じっていたということだ。
 ユイは腹部を押さえ眉をしかめる。
 
「この犯行は複数によるものだが、偵察と処置の実行を兼ねた工作員たちが居た。彼らは軍人ではないが、一般人にしては統率が取れていた。彼らは状況が不利とわかると二手に分かれ現場から逃走した」

 この場にいないセキジの代わりに、ユイから少し離れた背後にいたマシューが告げる。
 セキジは攻撃の出来ないマシューを庇い、左腕に傷を受けた。
 ミオンによるとセキジが着用していたアウリ合金繊維のスーツが致命傷を防いだそうだ。

「死者5人の身元はどうなっている?」
 
 タクマが哀しみに満ちた目で黙祷を捧げた後、ミカゲに問う。
 ユイも、アレンもタクマの黙祷に続いた。

「身元を確認する前に遺体そのものが消えた」
「なんだと!?」

 ミカゲが凍り付くような鋭い視線をマシューに投げかける。
 その視線をマシューは黙って受け止めたが、その黒いカメラアイは、わずかに焦点を変えた。

「別部隊の存在は確認していたが、攻撃は一切しなかった。追う必要性は感じなかった」
「そうだね。敵らはそれも承知の上で行動していたことになる」

 ミカゲとマシューの会話を聞いていたアレンが俯く。 
 
「アゼレウス支社の工場にグライゼルの関係者は居ると思います。しかし彼等が手引きした証拠はありません。思想を裁くとすれば大きな社会問題になるでしょう」
「そうさ、彼らも僕が直接来ることは大きな誤算だったはずだよ」
「その点では貴殿がユイを救い出してくれたこと、深く感謝する。……ありがとう」
「私と息子を救ってくださったこと、深く感謝いたします。ありがとうございました」

 タクマが立ち上がるのを見たユイも立ち上がろうとするが、タクマに制される。
 ユイはタクマと同じタイミングでミカゲに頭を下げた。
 
「……まぁ、結果オーライなんだけどね。一応関係者には緘口令を徹底してくれる?」

 誰も異議を唱えなかった。それが、この事件の結末だった。