ユイとレイラとミオンが第4倉庫の奥へと進んだ後、
第3倉庫の外れで、原因不明の火災が起こる。
直ぐに消防チームが駆けつけ火は鎮火。
ボヤ騒ぎも落ち着くはずだった。
後に、この火災が単なる事故ではなかったと知る者は少ない。
そして、この日ここに現れた“ある人物”の存在が、すべての均衡を崩したことも。
第4倉庫前に何者かによって手榴弾が投げ込まれたのは、ユイが電動車椅子まで戻った直後だった。
入口付近から煙が押し寄せて来る。
どこに逃げれば……と三人が考えを巡らせたとき――。
側面の壁に穴が開いた。そこから何人かの人間が中へ入ってくる。
その中に灯りを手にした若い男性が、注意深く何かを探しながら近づいて来る。
「やっぱりここにいたのか。急いでここから出るよ」
それは以前アザリウムで聞いた若い男性の声によく似ていた。
「あなたは……?」
「話は後だ」
彼は灯りを下に置き、背後から来た者から毛布を受け取ると、ユイの肩に素早く掛ける。
ユイが毛布の温かさに安心していると、男性は突然、軽々とユイの身体を持ち上げる。
「何をするの!?」
「お腹の子に煙を吸わせるつもり? 少し黙っててよ」
言われてユイは黙る。口元に毛布をあて、煙を吸い込まないようにする。
「ふうん。意外と素直なのは良いね。んじゃ、二人とも立てる? 崩壊するから走るよ!」
さらに壁の側面が壊された音がする。
「レイラ様、お辛いようでしたらわたしの背中に。煙をあまり吸わないように」
「うん、大丈夫。こういうのは意外と慣れてる」
ユイは男性に抱き上げられたまま、開けられた大穴から外へ出る。
現場から離れたことを確認し、清浄な空気を体内に送り込む。
第4倉庫からは煙が立ち上っている。
安心したのは、レイラとミオンも直ぐ近くにいたことだ。
「レイラ、ミオン……大丈夫?」
「うん、大丈夫よ」
「わたしも平気です!」
二人の無事を確認してユイはホッとする。
マシューとセキジが気がかりだけれど、ミオンがセキジと連絡を取っている様子をみて、
ユイはその心配をとりあえず引っ込める。
「どこのどなたか分かりませんが、助かりました。……ありがとうございます」
「いや……この程度大したことじゃない」
「そんな……」
言葉を続けようとしたとき、ユイは男性の視線の先に驚く。ユイの右手の甲だ。
その赤紫色の目が僅かに鋭く細められるが、すぐにもとの表情に戻る。
男性はユイたちを救急車のもとまで連れて行き、
救助隊と一緒に静かにユイを降ろした。
直後。爆発音と共に、第4倉庫に火の手があがる。
「――っ!?」
「僕の部下が回収した。あとで洗えば、きれいになるから」
ユイは改めて男性の黒髪と赤紫色の目を見た。
あの時と同じ組み合わせ。アザリウムで見かけたアバターは彼そのものだった。
それでも警戒心は解いてはならないと思う。
が、男性の方が一枚上手だった。
「これは薬を溶かした水。お腹の子供を助けるものだよ。飲むかの飲まないかは君の自由だけど」
そう言われたら断る理由がなくなる。
実際、喉の渇きも感じている。
「……ありがとう」
ミオンもレイラも男性から水を受け取る。
「マシューとセキジは無事?」
「はい、無事です。今は怪我をした人を運んでいるそうで」
ミオンの言葉に、ユイはようやく安心した表情を見せる。
しかし一方でレイラは苦しそうにこめかみを押さえ、荒い息を吐いていた。
「レイラ、大丈夫?」
「ごめんね、煙吸ったかな……? 少し眩暈がする」
それを聞いた男性が手を叩いた。
すると男性の部下らしいスーツ姿の女性たちが数人駆け寄ってきた。
「彼女が安静に出来る場所へ連れて行ってあげて」
男性の言葉で女性たちは状況を把握し、苦しそうなレイラを支えながらテントへ向かう。
「君は大丈夫かい?」
「わたしは全然平気です。ちょいハードな訓練て感じですね!」
ミオンはこんな時も明るい。
「カイドウ家の訓練もなかなかヘビーだね。じゃあさ、ちょっと外してくれる?」
「……あなたは誰? ミオンは私の護衛です。勝手に指図しないで」
ユイは赤紫色の目を冷やかな視線で見つめる。
男性はその視線を全く気にせず受け止めた。
「あれ、自己紹介まだだった? 僕はミカゲ。以前、君の要請で君のAIドールを回収したよ?」
男性の言葉に、ユイは何となくそんな人が居たと理解する。
ミオンが名前を聞いて、僅かに上ずった声を上げた。
「ミカゲって……もしかしてマガミ家当主の、あのミカゲ様、ですか!?」
「そうだよ」
彼はニヤリと笑って見せる。
(このヒトがマガミ家当主……? うそ、私よりも若く見えるけど?)
「声が全然違う……」
「ああ、そうだったかもね」
ユイの疑問もミカゲにあっさりと流される。
「じゃあ行こうか、ここじゃない何処か」
その台詞をどこかで聞いたことがあると思いながら、一瞬だけ、躊躇が生まれた。
それでもユイは、ミカゲの手を取った。
第3倉庫の外れで、原因不明の火災が起こる。
直ぐに消防チームが駆けつけ火は鎮火。
ボヤ騒ぎも落ち着くはずだった。
後に、この火災が単なる事故ではなかったと知る者は少ない。
そして、この日ここに現れた“ある人物”の存在が、すべての均衡を崩したことも。
第4倉庫前に何者かによって手榴弾が投げ込まれたのは、ユイが電動車椅子まで戻った直後だった。
入口付近から煙が押し寄せて来る。
どこに逃げれば……と三人が考えを巡らせたとき――。
側面の壁に穴が開いた。そこから何人かの人間が中へ入ってくる。
その中に灯りを手にした若い男性が、注意深く何かを探しながら近づいて来る。
「やっぱりここにいたのか。急いでここから出るよ」
それは以前アザリウムで聞いた若い男性の声によく似ていた。
「あなたは……?」
「話は後だ」
彼は灯りを下に置き、背後から来た者から毛布を受け取ると、ユイの肩に素早く掛ける。
ユイが毛布の温かさに安心していると、男性は突然、軽々とユイの身体を持ち上げる。
「何をするの!?」
「お腹の子に煙を吸わせるつもり? 少し黙っててよ」
言われてユイは黙る。口元に毛布をあて、煙を吸い込まないようにする。
「ふうん。意外と素直なのは良いね。んじゃ、二人とも立てる? 崩壊するから走るよ!」
さらに壁の側面が壊された音がする。
「レイラ様、お辛いようでしたらわたしの背中に。煙をあまり吸わないように」
「うん、大丈夫。こういうのは意外と慣れてる」
ユイは男性に抱き上げられたまま、開けられた大穴から外へ出る。
現場から離れたことを確認し、清浄な空気を体内に送り込む。
第4倉庫からは煙が立ち上っている。
安心したのは、レイラとミオンも直ぐ近くにいたことだ。
「レイラ、ミオン……大丈夫?」
「うん、大丈夫よ」
「わたしも平気です!」
二人の無事を確認してユイはホッとする。
マシューとセキジが気がかりだけれど、ミオンがセキジと連絡を取っている様子をみて、
ユイはその心配をとりあえず引っ込める。
「どこのどなたか分かりませんが、助かりました。……ありがとうございます」
「いや……この程度大したことじゃない」
「そんな……」
言葉を続けようとしたとき、ユイは男性の視線の先に驚く。ユイの右手の甲だ。
その赤紫色の目が僅かに鋭く細められるが、すぐにもとの表情に戻る。
男性はユイたちを救急車のもとまで連れて行き、
救助隊と一緒に静かにユイを降ろした。
直後。爆発音と共に、第4倉庫に火の手があがる。
「――っ!?」
「僕の部下が回収した。あとで洗えば、きれいになるから」
ユイは改めて男性の黒髪と赤紫色の目を見た。
あの時と同じ組み合わせ。アザリウムで見かけたアバターは彼そのものだった。
それでも警戒心は解いてはならないと思う。
が、男性の方が一枚上手だった。
「これは薬を溶かした水。お腹の子供を助けるものだよ。飲むかの飲まないかは君の自由だけど」
そう言われたら断る理由がなくなる。
実際、喉の渇きも感じている。
「……ありがとう」
ミオンもレイラも男性から水を受け取る。
「マシューとセキジは無事?」
「はい、無事です。今は怪我をした人を運んでいるそうで」
ミオンの言葉に、ユイはようやく安心した表情を見せる。
しかし一方でレイラは苦しそうにこめかみを押さえ、荒い息を吐いていた。
「レイラ、大丈夫?」
「ごめんね、煙吸ったかな……? 少し眩暈がする」
それを聞いた男性が手を叩いた。
すると男性の部下らしいスーツ姿の女性たちが数人駆け寄ってきた。
「彼女が安静に出来る場所へ連れて行ってあげて」
男性の言葉で女性たちは状況を把握し、苦しそうなレイラを支えながらテントへ向かう。
「君は大丈夫かい?」
「わたしは全然平気です。ちょいハードな訓練て感じですね!」
ミオンはこんな時も明るい。
「カイドウ家の訓練もなかなかヘビーだね。じゃあさ、ちょっと外してくれる?」
「……あなたは誰? ミオンは私の護衛です。勝手に指図しないで」
ユイは赤紫色の目を冷やかな視線で見つめる。
男性はその視線を全く気にせず受け止めた。
「あれ、自己紹介まだだった? 僕はミカゲ。以前、君の要請で君のAIドールを回収したよ?」
男性の言葉に、ユイは何となくそんな人が居たと理解する。
ミオンが名前を聞いて、僅かに上ずった声を上げた。
「ミカゲって……もしかしてマガミ家当主の、あのミカゲ様、ですか!?」
「そうだよ」
彼はニヤリと笑って見せる。
(このヒトがマガミ家当主……? うそ、私よりも若く見えるけど?)
「声が全然違う……」
「ああ、そうだったかもね」
ユイの疑問もミカゲにあっさりと流される。
「じゃあ行こうか、ここじゃない何処か」
その台詞をどこかで聞いたことがあると思いながら、一瞬だけ、躊躇が生まれた。
それでもユイは、ミカゲの手を取った。
