08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~

 エレナ・セナ・リーシェン。
 彼女はヒロトの叔母にあたる女性だ。
 黒髪に紫色の目。エレナは静かで穏やかな女性だった。
 落ち着いた表情は、ユイの祖母リエを連想させる。
 
「いつか私を訪ねて来るとは思っていました」

 お互い軽い自己紹介の後、エレナは語り始めた。
 会議室に西日が射し込む。
 ヒロトから連絡が来たのは、丁度ユイの元にメンテナンスを経てマシューが戻って来た日。

 成人式に出会った女性は、キモノ姿が美しい清楚な女性だったそうだ。
 そんな彼女と何度も出会った結果、実は芯が強く、なかなか心を開いてくれない人だとわかる。
 それでも惹かれ、気が付いたら追いかけていたという想いを、エレナに話していたそうだ。

「だから友達から始めなさい、待ちなさいと言ったの……」

 そしてついにその女性と恋人になれたこと。
 彼女とゆくゆくは“結婚”を考えていること。
 それが最後の連絡の内容で、エレナは祝福の言葉を贈ったばかりだったそうだ。

「……ユイさんが、あの子の運命の人だったのね」
 
 トオルも目に涙を貯めている。優しい人だ。
 頬から涙が何度も伝った。

「でも……ヒロトを探さないでください。あの子はもう……」

 時計を見つめるエレナを、ユイが引き留める。

「待ってください。私は――」

(私のお腹には……)
 
 そう言おうとしてユイは首を振る。
 ヒロトと同じ紫色の目には深い憂いと涙が滲んでいる。
 
(だめ。言えない……)

 もしかしたら彼女は最初から分かっていたのかもしれない。

「あなたはカイドウ家のご令嬢でしょう? 目元がお母様にそっくりね」

 ヒロトの叔母は、ユイに向かって深々と頭を下げる。
 それは別れの挨拶だ。

「ユイさん、行こう」

 トオルに手を引かれてユイは会議室を去る。
 振り返った時に見たのは彼女の優しい泣き顔だった。

「あなたの幸せを、私も願っているわ」

 その言葉は彼女の言葉ではなく――
 ヒロト本人に言われたような気がした。