夕食を取るはずだった飲食店に到着すると、
その店は臨時休業してしまっていた。
完璧だと思っていたヒロトのデートプランが崩れる。
予約を受け付けない店だったのか、それともヒロトが予約していなかったのか。
夕食を何処で取るのか決められないまま、ふたりはライトアップされた時計塔の見える公園に来た。
寄り添う恋人たちで溢れた夜の公園。
意外にも屋台カーが多くちょっとした食事処になっている。
ヒロトが悩んだ末にユイとここに戻って来たのは、ユイがそう提案したからだ。
「お洒落な店で食事も良いけど、もっと肩の力を抜けるところがいい」
ホットワイン、ロブスターの肉を丸ごと挟んだサンドイッチ。
大き目だったので半分にして貰ってふたりで同じものを座って食べる。
ロブスターを口にするのは初めてだ。
未知の食材に触れ、美味しいと言いながら食べる。
ただそれだけなのに、どの高級料理にも負けないほどの幸福感を感じた。
楽しい時間はあっという間で、もう一日が終わる。
初めての……。これが、デート……。皆が経験するというデート。
ヒロトと本当の意味で共有できた、初めての時間。
ヒロトと噴水そばのベンチで座っている時だった。
ライトアップされた噴水の水面がキラキラと輝いて美しい。
気が付くとユイは独り言をヒロトに話していた。
舞台に立つヒロトを見たとき、手が届かない人だと思ったこと。
万華鏡のように少しずつ変わるのが羨ましいと思っていること。
ヒロトはただ黙ってその独り言を聞いていた。
否定も肯定もせず、ユイが自然に答えを出すのを待った。
幸せを感じることが怖いと、ユイが口にした時。
ヒロトは初めて言葉を紡いだ。
「俺がそばにいるよ。もし……ユイさんが望んでくれたらだけど」
控えめな言葉だった。
以前のヒロトならこんなふうには言わなかっただろう。
「こういってみて。……ずっと傍にいる、って」
「うん?」
「そう言ってもらえたら、安心できる気がするの」
嘘でもいいと思いながら、ユイはヒロトからその言葉を聞きたかった。
それはどんなに望んでも絶対に言ってくれない言葉。
AIではなく人間のヒロトから聞きたかった。
それが正しい在り方で、正しい選択なのだと信じたかった。
同時にそれは”大切な存在”への”裏切り”だと心が叫ぶ。
そんな最低な自分を心底、嫌悪する。
「……後悔しない?」
ヒロトは否定しない。ただ“確認”するだけだ。
まるでユイがその言葉を本当は誰から聞きたいのか、分かっている様だった。
分かっているから、ヒロトは選択肢をユイに突きつける。
「それをユイさんに言ってしまったら、俺はもう何も我慢できない」
同時に自分を選んで欲しいと、その視線が告げている。
「……お願い」
ユイの視線がヒロトの視線と重なる。
その言葉の意味がどれほど重いかをユイは感じながら、応えた。
「ずっと君の傍にいるよ。これから先何が起こるか分からないけどね」
雲が流れて欠けた月が姿を現す。
緑色のチャームがとれたユイの携帯端末が、月光を浴びて午後8時31分を示した。
その夜、ユイは自宅に戻らなかった。
その店は臨時休業してしまっていた。
完璧だと思っていたヒロトのデートプランが崩れる。
予約を受け付けない店だったのか、それともヒロトが予約していなかったのか。
夕食を何処で取るのか決められないまま、ふたりはライトアップされた時計塔の見える公園に来た。
寄り添う恋人たちで溢れた夜の公園。
意外にも屋台カーが多くちょっとした食事処になっている。
ヒロトが悩んだ末にユイとここに戻って来たのは、ユイがそう提案したからだ。
「お洒落な店で食事も良いけど、もっと肩の力を抜けるところがいい」
ホットワイン、ロブスターの肉を丸ごと挟んだサンドイッチ。
大き目だったので半分にして貰ってふたりで同じものを座って食べる。
ロブスターを口にするのは初めてだ。
未知の食材に触れ、美味しいと言いながら食べる。
ただそれだけなのに、どの高級料理にも負けないほどの幸福感を感じた。
楽しい時間はあっという間で、もう一日が終わる。
初めての……。これが、デート……。皆が経験するというデート。
ヒロトと本当の意味で共有できた、初めての時間。
ヒロトと噴水そばのベンチで座っている時だった。
ライトアップされた噴水の水面がキラキラと輝いて美しい。
気が付くとユイは独り言をヒロトに話していた。
舞台に立つヒロトを見たとき、手が届かない人だと思ったこと。
万華鏡のように少しずつ変わるのが羨ましいと思っていること。
ヒロトはただ黙ってその独り言を聞いていた。
否定も肯定もせず、ユイが自然に答えを出すのを待った。
幸せを感じることが怖いと、ユイが口にした時。
ヒロトは初めて言葉を紡いだ。
「俺がそばにいるよ。もし……ユイさんが望んでくれたらだけど」
控えめな言葉だった。
以前のヒロトならこんなふうには言わなかっただろう。
「こういってみて。……ずっと傍にいる、って」
「うん?」
「そう言ってもらえたら、安心できる気がするの」
嘘でもいいと思いながら、ユイはヒロトからその言葉を聞きたかった。
それはどんなに望んでも絶対に言ってくれない言葉。
AIではなく人間のヒロトから聞きたかった。
それが正しい在り方で、正しい選択なのだと信じたかった。
同時にそれは”大切な存在”への”裏切り”だと心が叫ぶ。
そんな最低な自分を心底、嫌悪する。
「……後悔しない?」
ヒロトは否定しない。ただ“確認”するだけだ。
まるでユイがその言葉を本当は誰から聞きたいのか、分かっている様だった。
分かっているから、ヒロトは選択肢をユイに突きつける。
「それをユイさんに言ってしまったら、俺はもう何も我慢できない」
同時に自分を選んで欲しいと、その視線が告げている。
「……お願い」
ユイの視線がヒロトの視線と重なる。
その言葉の意味がどれほど重いかをユイは感じながら、応えた。
「ずっと君の傍にいるよ。これから先何が起こるか分からないけどね」
雲が流れて欠けた月が姿を現す。
緑色のチャームがとれたユイの携帯端末が、月光を浴びて午後8時31分を示した。
その夜、ユイは自宅に戻らなかった。
