08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~

 数日後、ユイはヒロトに連れられ、合唱団の練習場として使用している小ホールにやって来た。
 ヒロトへの警戒心も消え、ロレン先生のところへ運んでくれたことがきっかけになった。

(彼は自己中なところがある。でも、それに気づいて努力を始めた前向きな人)

 ただ見ているだけではつまらないからと、渡された一枚の楽譜。

 楽し気に声を出すメンバーを見て、メンバーが連れている動物型AIたちを見て。
 ユイはその目を輝かせる。
 
「一緒にどうだい?」
「この歌流行ったよね。知ってる?」
「歌っているうちに覚えるさ」
  
 メンバーに誘われて、ユイは少しずつ声を出していく。
 この歌は学生の頃よくレイラと歌った流行歌。歌詞もメロディーも分かる。
 でものびのび歌うのは少し恥ずかしくもある。
 ただ歌うこと自体は、好きな部類だと思う。

「あんた、良い声だねえ」
「レミちゃん、良い子拾ってきたね」

 ヒロトが押しの強い女性メンバーたちに「見学に来てるだけだから」と
 止めにかかる。

 ユイは大丈夫、と言う意味を込めてヒロトに微笑む。
 それが伝わったのかヒロトは頷く。

「私……高い音はちょっと心配で……」
「ちょっとしたコツがあるんだよ。いいかい、ここの跳躍は上の音を目指すだけじゃなくて、上から声をひょいと引っ張るようにするんだ」

 女性がユイの前で歌って見せる。
 きれいな旋律が辺りを包む。

「あ、そうか!……押し上げちゃダメなんだ」

 ユイもつられて声を出す。


「今のは……?」
「筋がいいねぇ! ただ、次の歌詞を見てごらん、ここで場面が変わるから……。次はね……」

 気さくで優しくて、ちょっとだけお節介なところもある女性陣と。
 穏やかで陽気な男性陣。

 マシューの周りにもなぜか動物型AIドールが集まっている。波長が合うとかあるのだろうか。
 動物の集会のようで微笑ましい。

 アットホームな合唱団だ。
 それでいて皆で歌い出せば、声が一本の清流のように空間を流れていくのだ。
 ホールで味わった風景が変わるような感覚は、間違いじゃない。

 時々マシューと目が合う。

 『大丈夫だ』

 そう言われているようで、その安心感がユイの背中を押す。
 
「やっていけそう?」

 気を使って声を掛けるレミに、ユイは。

「歌うって、こんなに楽しいことだったんですね」

 と笑顔で答える。
 それがユイの答えだった。

「ようこそ合唱団“アルゼリス”へ!」

 歓迎の拍手を受けてユイはこの日、歌の世界に足を踏み入れた。
 ユイの携帯端末には、新しい連絡先が登録される。

 “ヒロト・セナ・リーシェン”
 ”レミ・イナ・ロレン”


 数日たってからその連絡リストには。
 合唱団”アルゼリス”の団長の連絡先やトオルの連絡先などが登録された。