08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~

 マシューは目を伏せ、まだ待機姿勢のままだ。
 
「待ってるとは言ったけどよ。そのルール無視な衣装のままで来たのかよ」
「演目作品のイメージを優先させただけだ。団長も許可した」
「なら良いけど、あんまり突っ走りすぎて事故るなよ?」
 
 頷くヒロト。
 眼鏡をかけていないヒロトと視線が合う。
 澄んだ紫が少しだけ澱んでいる気がした。
  
「……恋人と来たとは思わなかった。邪魔してすまない」
「ん? 恋人? どうしてそうなるんだ?」
 
 ユイはそんな彼に、少しだけガッカリする。
 と同時に自分の思い込みを押し付けようとする態度に腹が立った。

「誤解です。勝手に決めつけないで」
 
 ユイの言葉が静かな空間に響いた。
 冷たい怒り。
 向けられたヒロトだけでなくトオルも動きを止めた。
 
 それまで待機中だったマシューが起き上がり、言葉を放つ。

「話は終わったようだな。ユイ、今日は宿をとったほうがいい。検索するか?」
「うん。……お願い」

 ユイはヒロトとトオルに一礼する。
 マシューはユイのバッグを咥え、ユイに渡す。
 ユイが立ち去ろうと一歩を踏み出したとき。

「待って。俺もトオルもリージョンCに帰る。送るよ」
「……ごめんなさい。お気遣い嬉しいですけど、結構です」

 冷たいユイの言葉があたりに響いたその時ーー。

「あー。この時間に歩くのはヤバいよ?」

 トオルが慌ててユイを止める。

「どうして?」
「昔、このリージョンには過激派組織「グライゼル」の拠点があったんだ。嫌かもしれないけど一緒の方がーー」

 ヒロトがユイにただ事実を話す。
 しかしユイにとってはその単語は凶器だった。
 
「過激派組織……グライゼル……」

 その単語を聞いた時、ユイの中で何かが揺れた。
 銃の音、人の悲鳴。
 広がる赤ーー、過去の悲惨な光景がユイに津波のように押し寄せる。
 両腕を抱え、震えながらその場にうずくまるユイ。
 
「ユイ!」

 マシューの声が遠ざかる。ヒロトもトオルの声も遠く消えていく。
 ユイの全てが過去に引き込まれる。
 
 忘れたいのに今なお鮮明に覚えている。
 どんなに振り切っても背後から迫ってくる。

 そんな忌まわしい記憶の全てが津波のようにユイに押し寄せた。

『……ヲ発見シタ。裁キヲ……』

 アレはあの時。リエとユイを見てそう告げた。

『オマエ……タチ サエ……』

 無機質に向けられる銃口。

『イナケレバ』
 
 悲痛な叫びが辺りにこだました。