08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~

 リージョンN、カイドウ家本邸。
 失踪したユイとMathew、レイラを含むグライゼル当主らの行方を全力で捜索していた。
 泣くユーリを抱きながらアヤカは、外を見た。
 
 アーリア海で小型のヘリの残骸が見つかった。
 しかしMathewの残骸も、ユイの遺体も発見されていない。
 海底も調査されたが、遺品となる物は何も残っていなかったという。
 きっと生きている、とアヤカは信じている。
 
 ――Mathew、どうかユイを守って。
 
 その願いがMathewに届いたかどうかは分からない。
 同じ想いを幼いユーリもまた抱いていた。

 ―*―
 一方タクマは、リージョンFの当主会議でユイの代理として参加していた。
 グラゼル家当主が“世界”と”神”を再び裏切ったというシナリオを、世界に伝える必要があるからだ。

 目の下に深いクマを作りながら、ミカゲは会議で意見を述べる。
 アハド家当主ロバート・グラン・アハドが、その長い髭をいじりながら孫を見た。

「曾孫が新しい守護者とはな……。ようやく神がその役目を終えるか」
「まだ役目を終えられると決まったわけではありませんよ」
「彼女のせいで世界は荒れた。グライゼルを動かした責任をカイドウ家はどうとる?」
「カイドウ家はなにもしていない。その正当性を行動で訴える。あとは司法と思想が整えてくれ」

「……グラゼル家は消えてもらいましょう。世界が変わる時、生贄は必要ですし」
「なぜそこまでユイに固執するんだ? 女王の因子が目的か?」

 タクマの質問にミカゲは小さく微笑み、そしてすぐに真摯な眼差しで言い切った。

「ユイは僕の妻だ」

 僅かな沈黙の後。

「……それが、死と同義であると知ってもか?」

 ロバートが揺れる視界で孫を見つめる。

「僕は神の前で永遠の愛をユイに誓いました。彼女がどう答えようがこれは変わらない」
「貴殿の愛は本物だったのだな。ありがとう……。ユーリをユイを、頼む……」

 タクマはうつむき、ロバートは窓の外に視線をずらす。
 ミカゲは両者の想いの大きさを感じながら、目を瞑った。

 しかしミカゲは知っていた。
 初めからこの結末を迎える事を。
 僅かに予定が早まったものの、それだけだ。
 本当に神を裏切ったのは、グラゼル家でもグライゼルでもない。

 ”誰かを想うことは罪ではない。
 その結果を望んでしまうから罪になるんだ” 

 僕はユイと初めて出会ったあの日、望んでしまった。
 消えることのない想いを。

 ―*―
 カイドウ家当主だけが去った、ミカゲの執務室。
 アハド家当主が温かい紅茶を口に含んだ時だった。 

「リージョンKのグラゼル家本邸には戦える者は残っていない。それでも制圧したという事実が欲しい。僕が動いていいですね?」

「構わんが、儂が動いたほうが良いのではないか?」
「いいえ、花嫁を奪われた者が動いたほうが“絵”としては美しい」

「アゼレウス社はどうする?」
「社長を変えます。トオル・ルオ・タケシバと言う技師が適任でしょう」
 
 トオルとアレンは現在アハド家の本邸で保護されている。
 暴徒からの襲撃から守るためだ。

「それはおまえを庇ったからか?」
「それもありますが、彼のエピソードは悲劇の美談になります」

 神シュゼルトから”同調”を消された今となっては、大勢の人間の「目」を使うしかない。
 それにこうなることは最初から分かっていた。

「恐ろしい男だな。魔王でもなるつもりか?」
「神を裏切った時から、僕はもう魔王ですよ」

 ―*― 
 誰もが引き返せない夜を過ごした夜。
 美しい星空に流れ星が一つ流れた。

 衰弱した姿のままミカゲは緊急報道会見を行った。
 愛する花嫁を奪われた花婿の涙の会見は、多くの人間の涙を誘った。

 一方でミカゲも予測しなかった人物が動く。

 それはRARUTOのラウルだ。
 彼は多くのSNSを使って女王の目撃情報を募った。
 
 彼が見た女王の姿は、世界の悪グライゼルによって奪われた”世界の聖女”だった。
 そんな聖女をどうか温かく迎え入れて欲しい、そんな願いをこめて彼は歌ったのだ。
 その歌が全世界で大ヒットしたというのは面白い皮肉だろう。
 
 魔王ミカゲ・カイ・マガミが描いた愛の嘘。
 それは誰にも知られることなく、最高のエンディングを持って迎えられることになる。