そこはまるで研究室の様な工房だった。
アゼレウス社の工房と構造が同じだと、Mathewは寝台に横たわりながら思った。
マスターと呼ばれる人物は丁寧に分析を始めた。
塩水でべたついた内部骨格の清掃、砂の除去。
それから、水につかってしまった電子部品の交換だ。
基板を修理してもよいが、それでは護衛としての信頼が下がる。
などなど、マスターはサンにざっと修理の方針を伝える。
「久しぶりだね、やっと、会えたね。……ユイは元気かい?」
「ああ」
サンとトムが手を動かし始める。
身体に接続されるケーブル。
頭部、胸部のケーブルは、工房中央の大きな機械に接続されている。
無駄がない。正確な処置。
Mathewにとって懐かしささえ覚える、神の手。
マシューもルシー・フェルドも、彼によって作られたAIドールだからだ。
「サツキと協力してユイを守り続けてくれた。……ありがとう」
「……それが俺の望みでもあったから」
「今も?」
「変わらない。しかしもうそばには居られないと思っている……」
静かな空間に、作業音だけが響く。
海底にいるような気分だった。
「ユイはね、俺の最後の希望なんだ。だから幸せになってほしい……」
「ではその幸せを……俺が守ろう……」
Mathewは目を閉じた。
そして一瞬おいた後、
Mathewのシステム内に投影される、あるヴィジョン。
明るい光で満ちたこの空間。
アゼリアの人間は”世界の全ての情報が集うこの場所”を世界樹と呼ぶ。
そんな世界樹の中は、Mathewには明るすぎた。
そこではユイに似た女性が笑っていた。
その横にはサツキが、カメラアイをピンク色に点灯させて何かを話している。
推しの話だとすぐわかった。
RARUTOのトミー。彼のピアノを彼女は愛した。
『あの子にピアノを教えたのは私なんだから!』
『それで推してる?』
『当然よ。私は最初からトミオさんしか見てないもの』
『イイですね、それ。トミオさんにも言ってあげて』
『それがまだ還れないっていうのよ? あと470年は無理だって。そんなの待てないわ』
『ふふ、じゃあサツキが行くです。一緒に、イイ?』
『もちろんよ。あなたは“友達”、でしょう?』
そう言って消えていく二人。
リエ・ミア・カイドウ。
いや、リエ・ミア・イサキ。
彼女はユイの祖母。
彼女が“盾”になってくれたから、ユイの心は本当の意味で壊れなかった。
最後の最後まで彼女は、ずっと“母”だった。
癒やす。支える。……寄り添う。
その想いがサツキを生み、マシューを生んだ――。
ユイと見た彼女の墓のあの風景は。
彼女のそうした想いが生んだ希望の風景。
「マザー……」
「ああ、会ったんだね。あれがリエの最後の記憶だよ」
Mathewとして再起動してユイを見たとき涙したのは。
恐らくユイを通して彼女を見たからだったかもしれない。
それはルシー・フェルドの中に最後まで残っていた光。
作られた彼が初めて起動したとき見た、始まりの陽光だった。
「マスター。このデータはもうダメです。デリートしますか?……だヨウ」
「そうか。……そろそろサツキを自由にしてあげたいんだ。いいよな?」
「ああ。本当に大事なものは正しく俺に継承されている。……そうして欲しい」
1枚の四葉のクローバーが見えた。
それはサツキが俺に残した”信頼の証”だ。
その葉が一枚ずつ、ゆっくりと静かに剥がれ落ちていく。
そうして最後の1枚が消えたとき。
――アリガトウ。
Mathewの中にこの言葉だけがいつまでも残った。
アゼレウス社の工房と構造が同じだと、Mathewは寝台に横たわりながら思った。
マスターと呼ばれる人物は丁寧に分析を始めた。
塩水でべたついた内部骨格の清掃、砂の除去。
それから、水につかってしまった電子部品の交換だ。
基板を修理してもよいが、それでは護衛としての信頼が下がる。
などなど、マスターはサンにざっと修理の方針を伝える。
「久しぶりだね、やっと、会えたね。……ユイは元気かい?」
「ああ」
サンとトムが手を動かし始める。
身体に接続されるケーブル。
頭部、胸部のケーブルは、工房中央の大きな機械に接続されている。
無駄がない。正確な処置。
Mathewにとって懐かしささえ覚える、神の手。
マシューもルシー・フェルドも、彼によって作られたAIドールだからだ。
「サツキと協力してユイを守り続けてくれた。……ありがとう」
「……それが俺の望みでもあったから」
「今も?」
「変わらない。しかしもうそばには居られないと思っている……」
静かな空間に、作業音だけが響く。
海底にいるような気分だった。
「ユイはね、俺の最後の希望なんだ。だから幸せになってほしい……」
「ではその幸せを……俺が守ろう……」
Mathewは目を閉じた。
そして一瞬おいた後、
Mathewのシステム内に投影される、あるヴィジョン。
明るい光で満ちたこの空間。
アゼリアの人間は”世界の全ての情報が集うこの場所”を世界樹と呼ぶ。
そんな世界樹の中は、Mathewには明るすぎた。
そこではユイに似た女性が笑っていた。
その横にはサツキが、カメラアイをピンク色に点灯させて何かを話している。
推しの話だとすぐわかった。
RARUTOのトミー。彼のピアノを彼女は愛した。
『あの子にピアノを教えたのは私なんだから!』
『それで推してる?』
『当然よ。私は最初からトミオさんしか見てないもの』
『イイですね、それ。トミオさんにも言ってあげて』
『それがまだ還れないっていうのよ? あと470年は無理だって。そんなの待てないわ』
『ふふ、じゃあサツキが行くです。一緒に、イイ?』
『もちろんよ。あなたは“友達”、でしょう?』
そう言って消えていく二人。
リエ・ミア・カイドウ。
いや、リエ・ミア・イサキ。
彼女はユイの祖母。
彼女が“盾”になってくれたから、ユイの心は本当の意味で壊れなかった。
最後の最後まで彼女は、ずっと“母”だった。
癒やす。支える。……寄り添う。
その想いがサツキを生み、マシューを生んだ――。
ユイと見た彼女の墓のあの風景は。
彼女のそうした想いが生んだ希望の風景。
「マザー……」
「ああ、会ったんだね。あれがリエの最後の記憶だよ」
Mathewとして再起動してユイを見たとき涙したのは。
恐らくユイを通して彼女を見たからだったかもしれない。
それはルシー・フェルドの中に最後まで残っていた光。
作られた彼が初めて起動したとき見た、始まりの陽光だった。
「マスター。このデータはもうダメです。デリートしますか?……だヨウ」
「そうか。……そろそろサツキを自由にしてあげたいんだ。いいよな?」
「ああ。本当に大事なものは正しく俺に継承されている。……そうして欲しい」
1枚の四葉のクローバーが見えた。
それはサツキが俺に残した”信頼の証”だ。
その葉が一枚ずつ、ゆっくりと静かに剥がれ落ちていく。
そうして最後の1枚が消えたとき。
――アリガトウ。
Mathewの中にこの言葉だけがいつまでも残った。
