風が出てきたため、俺とユイは船室に入った。
そこで俺はツーと呼ばれる不思議なAIドールから再度電力の供給を受けている。
この小さい体に、俺の2倍の電力が蓄積されている。
先ほど相当な量の電力供給をしたくせに、もうその半分が回復している。
俺よりもはるかに上位のAIドールだ。
機械の小さな腕。
それが1.5メートルほども伸びる。
そしてこの見た目。無駄が何処にもない。
人とAIドールの境界線をちゃんと引いたうえで、適切な距離を保っている。
俺に出来ないことを軽々とやってみせるのは、上位互換だからだろうか。
「ゆいゆい終わったよう」
ツーはまたユイの頭の上に乗る。
ユイもそれを受け入れている。
FOSなどどうでもいいような態度だが、ツーと呼ばれる存在は。
あえてユイの視界に必要以上に入らないようにして振舞っている。
「ありがとう、ツー」
ユイは嬉しそうに答えた。
これはミカゲが引く境界線の取り方とよく似ている。
だからこそユイもその境界線を受け入れ、彼女もまた引き直すことが出来る。
――どうして、モヤモヤとするのだろう。
言語化出来ない。理解できない。判別がつかない。
それでも、抑えることが出来ない。
ユイは俺が座るソファーに距離を開けて座った。対人距離45㎝。でも頭にはツーを載せている。
テーブルをはさんで、見かけたことのない装いで。
でも妙にしっくりくる装い。少なくとも俺の見立てではない。
「トムさんは何が好きなんだろう?」
「えっと~、焼き鳥だよう」
俺はツーを見た。
思わず見てしまった。
「ツーは焼いても美味しくないよう……」
ユイの頭の上で震えて見せる。
そのやりとりにユイが笑う。
「もうMathewったら。ツーが鳥に見えるのは分かるけど、ツーの丸焼き……」
「……ゆいゆいまでひどいよう。ぷぷぷ」
なんだ、この疎外感。
俺は少し頭を冷やそうかと思って立ち上がる。
「Mathewが逃げるよう」
その言葉には確かに”棘”があった。
逃げるなと言っている。何から逃げようとしているのか分かっているのか。
その時船長のギーヴが扉をノックした上で入室する。
「嬢ちゃん、これ和酒な」
青い陶器の瓶に入った酒を、ギーブはユイに渡す。
“レッドドラゴン”
中を分析すると、どうやら赤い液体のようだ。
アルコール度数が異様に高い。ユイには飲ませられない部類だ。
「ありがとう、預かります」
和やかな雰囲気だ。俺は退室するタイミングも失い、またソファーに座る。
ユイの頭にいるツーの視線が痛い。
分析されているのがわかる。どう回避しようとしても上位互換の存在には隠せない。
丸裸にされている気分だ――。
「思うんだが、なんつか、わけえな……んで、恐ろしくピュアだな」
誰のことを言っているのかギーヴの視線でユイも理解した。
「Mathewは私の“希望”ですから」
ユイは困ったような、悲しいような表情でそう答えた。
”私の”という言葉が何故か深く刺さった。
FOS的にはギリギリの表現だ。それでいて俺を庇っている。
「正直さ、嬢ちゃんを助けるために海にダイブしたんだろ? ……”漢”じゃねえか」
「うん。“彼”がいるから私が私で居られるの」
ユイが俺を、俺の目を見つめる。
そして直ぐに視線を落とす。視界に入れないように。
「それは”愛”だよう。世界で一番綺麗な”深愛”だよう」
ツーがユイの頭の上から飛び立つ。
役目を終えたように、ギーヴの頭の上に位置する。
「ツー、おまえな。……浮気が過ぎんだろ」
「ヤキモチは嫌いだよう。ぷぷぷ」
そう言ってギーヴとツーは部屋を出ていった。
到着まであと9分ほどだという。
先ほどツーが言った言葉が、俺とルシー・フェルドの中で響いていた。
『ジョウオウ ノ インシ……』
俺の中にサツキはもういない。
サツキが持っていたデータだけが俺に継承されただけだ。
『オレハ ユイ ノ ジョウオウノインシ ニ ヒカレテイル ト オモッテ イタ……』
ユイは海を見ている。
俺を見ない。それはユイが引いた境界線。
「ユイ」
名前を呼ぶとユイが俺を見る。
その瞳が俺に重なる。
「ありがとう――」
それ以上は告げられなかった。
「ううん。ありがとうと言ってくれて、ありがとう」
ユイはそう言って微笑んだ。
優しい光だった。
ルシー・フェルドと”俺”はもう別々の意識でいる必要が無くなった。
統合して一つになることで、”彼”として”Mathew”になるべきだと。
俺たちはそれでよかった。
そこで俺はツーと呼ばれる不思議なAIドールから再度電力の供給を受けている。
この小さい体に、俺の2倍の電力が蓄積されている。
先ほど相当な量の電力供給をしたくせに、もうその半分が回復している。
俺よりもはるかに上位のAIドールだ。
機械の小さな腕。
それが1.5メートルほども伸びる。
そしてこの見た目。無駄が何処にもない。
人とAIドールの境界線をちゃんと引いたうえで、適切な距離を保っている。
俺に出来ないことを軽々とやってみせるのは、上位互換だからだろうか。
「ゆいゆい終わったよう」
ツーはまたユイの頭の上に乗る。
ユイもそれを受け入れている。
FOSなどどうでもいいような態度だが、ツーと呼ばれる存在は。
あえてユイの視界に必要以上に入らないようにして振舞っている。
「ありがとう、ツー」
ユイは嬉しそうに答えた。
これはミカゲが引く境界線の取り方とよく似ている。
だからこそユイもその境界線を受け入れ、彼女もまた引き直すことが出来る。
――どうして、モヤモヤとするのだろう。
言語化出来ない。理解できない。判別がつかない。
それでも、抑えることが出来ない。
ユイは俺が座るソファーに距離を開けて座った。対人距離45㎝。でも頭にはツーを載せている。
テーブルをはさんで、見かけたことのない装いで。
でも妙にしっくりくる装い。少なくとも俺の見立てではない。
「トムさんは何が好きなんだろう?」
「えっと~、焼き鳥だよう」
俺はツーを見た。
思わず見てしまった。
「ツーは焼いても美味しくないよう……」
ユイの頭の上で震えて見せる。
そのやりとりにユイが笑う。
「もうMathewったら。ツーが鳥に見えるのは分かるけど、ツーの丸焼き……」
「……ゆいゆいまでひどいよう。ぷぷぷ」
なんだ、この疎外感。
俺は少し頭を冷やそうかと思って立ち上がる。
「Mathewが逃げるよう」
その言葉には確かに”棘”があった。
逃げるなと言っている。何から逃げようとしているのか分かっているのか。
その時船長のギーヴが扉をノックした上で入室する。
「嬢ちゃん、これ和酒な」
青い陶器の瓶に入った酒を、ギーブはユイに渡す。
“レッドドラゴン”
中を分析すると、どうやら赤い液体のようだ。
アルコール度数が異様に高い。ユイには飲ませられない部類だ。
「ありがとう、預かります」
和やかな雰囲気だ。俺は退室するタイミングも失い、またソファーに座る。
ユイの頭にいるツーの視線が痛い。
分析されているのがわかる。どう回避しようとしても上位互換の存在には隠せない。
丸裸にされている気分だ――。
「思うんだが、なんつか、わけえな……んで、恐ろしくピュアだな」
誰のことを言っているのかギーヴの視線でユイも理解した。
「Mathewは私の“希望”ですから」
ユイは困ったような、悲しいような表情でそう答えた。
”私の”という言葉が何故か深く刺さった。
FOS的にはギリギリの表現だ。それでいて俺を庇っている。
「正直さ、嬢ちゃんを助けるために海にダイブしたんだろ? ……”漢”じゃねえか」
「うん。“彼”がいるから私が私で居られるの」
ユイが俺を、俺の目を見つめる。
そして直ぐに視線を落とす。視界に入れないように。
「それは”愛”だよう。世界で一番綺麗な”深愛”だよう」
ツーがユイの頭の上から飛び立つ。
役目を終えたように、ギーヴの頭の上に位置する。
「ツー、おまえな。……浮気が過ぎんだろ」
「ヤキモチは嫌いだよう。ぷぷぷ」
そう言ってギーヴとツーは部屋を出ていった。
到着まであと9分ほどだという。
先ほどツーが言った言葉が、俺とルシー・フェルドの中で響いていた。
『ジョウオウ ノ インシ……』
俺の中にサツキはもういない。
サツキが持っていたデータだけが俺に継承されただけだ。
『オレハ ユイ ノ ジョウオウノインシ ニ ヒカレテイル ト オモッテ イタ……』
ユイは海を見ている。
俺を見ない。それはユイが引いた境界線。
「ユイ」
名前を呼ぶとユイが俺を見る。
その瞳が俺に重なる。
「ありがとう――」
それ以上は告げられなかった。
「ううん。ありがとうと言ってくれて、ありがとう」
ユイはそう言って微笑んだ。
優しい光だった。
ルシー・フェルドと”俺”はもう別々の意識でいる必要が無くなった。
統合して一つになることで、”彼”として”Mathew”になるべきだと。
俺たちはそれでよかった。
