俺、マシューが”Mathew”になってからは、“意識”が3つほどある。
メインコアの“マシュー”、“ルシー・フェルド”、サブコアの“サツキ”。
俺たちは3つで一つの”Mathew”として存在する。
その内部ではそれぞれの担当に分かれた連携が円滑に進められていた。
司令塔は、俺。
行動は、ルシー・フェルド。
サポートは、サツキ。
俺たちのなかでメイン人格は”俺”とすることに決めていた。
最初は反発もあったが、今では安定を見せている。
だから”Mathew”という個体は、核に”マシュー”を持つ。
この連携のおかげでヘリの爆破をギリギリで回避できたものの――
ラナンに付けられた消臭剤で、火薬に気づくのが遅くなった。
俺の中のサツキが、コア崩壊までの時間をカウントダウンし始めた。
『ユイのファミリー・リング……探せるか?』
俺は、ルシー・フェルドに聞いた。
『サガス。タドッテ ミセル……』
ルシー・フェルドがサーチモードを発動する。
その時、あの声がまた聞こえた。
俺がルシー・フェルドに宿る直前に聞こえた声だ。
『君に援軍を送った。きっと力になってくれるはずだ』
それは俺にとっての“マスター”――、いや全てのAIドールにとっての”神”の声。
その声を聴いて、サツキがさらにコア崩壊を防ぐ為の時間を計算し始めた。
『――3600sec』
『ダガ ユイ ノ タイオン ハ ソンナニ モタナイ』
俺は“泳ぎ”とやらを実行してみる。
動物型だったときに学んだものだが、ヒト型でそれをやるのはどうも……
いや、この際カタチは後回しだが。
『プププ……』
サツキが笑う。
少し緊張がほぐれた。
『……ナニヲ シテイル。ユイ……ヲ カクニン シタ……。イソゲ 900sec ダ』
ルシー・フェルドは俺の数倍素直だ。
彼はユイを”彼女”、つまり恋する相手として見ている。
そのために俺と手を組んだといっても過言ではない。
護衛という目的のために俺は何度もユイに触れた。
温かい手。柔らかい肌。
それをルシー・フェルドは『尊い』と結論を出す。
そしてユイは今。
たった一つの想いに護られて海中にとどまっている。
酸素は足りているだろうか?
『……カクニン スル ト イイ!』
サツキが嬉しそうに告げる。
FOSを守りながらどうやって?
しかし酸素が足りてなければ浮上することは厳しい。
『ジンメイ キュウジョ ガ サイユウセン ダ。イタシカタ ナイ』
ルシー・フェルドの声に機体が籠る。
何を考えた……、そう思うと不謹慎であると思う。
海中でユイが俺に気が付いた。
目を光らせて来る何かが近づくのだ、気が付かない方がおかしいだろう。
それでもユイは笑っていた。
俺を見て、その無事を素直に喜んでいる。
海中では上手く距離が取れない――。
ユイの体にどうしても触れてしまう。
細い腰に、肩に。
ヒトが恋人にするような抱擁をすればユイをもっと短時間で救助出来るだろう。
酸素の確認……考えつくのは一つしかない。
だがユイはソレを望むのか?
望んでいたとしても、俺がFOSを超えてしまえば彼女は。
『ダイジョウブ。イマハ “マスター” ガ “FOSの記録” ヲ トメテルノ……8sec ダケ』
俺はユイの目を見つめた。
海面が明るくなる。光が海の中に差し込む――
マリンブルーの空間。
そこに漂うユイは言語化出来ないほど、完璧だった。
――3秒。
ユイの背中に回る手。
心臓は正常に動いている。
しかし体温はどんどん下がっている。
急がなければ。
酸素供給率は少し落ちている。
やむを得ない。
ユイの顔が迫る。
驚いた表情、でも拒絶はない。むしろ待っている?
ユイの手が俺の背中に廻った。
苦しいのだろうか。
少しずつ水圧に逆らって浮上する。
漁船はもう来ている。予定より早く来てくれた。
もう少しだけ耐えてくれ……。
――5秒。
俺はユイの目から視線が外せない。
初めてユイの姿を見た時から、もうずっとだ。
しかしユイは俺の口元を見ている。
この状況下でも、彼女は境界線を引き続ける。……俺のために。
一瞬だけユイが俺の目を見つめる。
唇が重なるまであと1㎝――
ユイの首に掛かっていたファミリーリングの鎖が切れた。
水流に乗って鎖から外れたリングは海底を目指して沈んでいく。
俺は手を伸ばそうとした。
しかしユイがそれを止めた。
――8秒。
俺は一気にユイを抱えたまま海面へ浮かび上がった。
海の上に顔を出し、息を吸うユイ。
海は穏やかで平たい。左側から射し込む陽光が眩しかった。
すると背後から幼い子供のような声が聞こえた。
「よかったよう! ギーヴ、ふたりはあっちだよう」
男性が小舟を旋回させる。
小船の上から差し出されたいかつい手。それは海の男の手だ。
「よう。助けに来たぜ」
「ギーヴ。網も、だよう」
その手がユイの身体を丁寧に海から引き上げる。手慣れている。無駄がない。
濡れた体を女性が大きなタオルで包み込む。ユイのバイタルが上昇し始める。
ふと見たダイバーズウオッチは15:00を指していた。
視界の先には光のカーテンが空から射らす。
そのすぐ近くに島が見える。
現在地は……検索圏外。
耳から付けたカイドウ家の無線はもう使えない。
「おうよ。行くぜイケメン。ちょっと荒っぽいがガマンしてくれよな」
俺は、俺を捕獲するために上から降ってきた網を受け入れた。
サツキが総ダメージを計算する。
『損傷率85%、メインコアへの浸水……1%……サブコア……95……』
俺はすぐにサブコアからデータを取り出した。
その多くはすでにサツキが移動させていたが、たった一つ護れないものがあった。
『ありがとう。それじゃあそろそろ、“彼”の側に行くわね』
その声は、サツキのものではなかった。
サツキの中に永らくあった“コア”。
それはサツキがトミオから渡された”四葉のクローバー”だった。
俺の身体が強制シャットダウンに入る。これは“マスター”の介入だ。
無意識に俺は手を伸ばす。
空へ昇っていくその女性はユイによく似ていた。
メインコアの“マシュー”、“ルシー・フェルド”、サブコアの“サツキ”。
俺たちは3つで一つの”Mathew”として存在する。
その内部ではそれぞれの担当に分かれた連携が円滑に進められていた。
司令塔は、俺。
行動は、ルシー・フェルド。
サポートは、サツキ。
俺たちのなかでメイン人格は”俺”とすることに決めていた。
最初は反発もあったが、今では安定を見せている。
だから”Mathew”という個体は、核に”マシュー”を持つ。
この連携のおかげでヘリの爆破をギリギリで回避できたものの――
ラナンに付けられた消臭剤で、火薬に気づくのが遅くなった。
俺の中のサツキが、コア崩壊までの時間をカウントダウンし始めた。
『ユイのファミリー・リング……探せるか?』
俺は、ルシー・フェルドに聞いた。
『サガス。タドッテ ミセル……』
ルシー・フェルドがサーチモードを発動する。
その時、あの声がまた聞こえた。
俺がルシー・フェルドに宿る直前に聞こえた声だ。
『君に援軍を送った。きっと力になってくれるはずだ』
それは俺にとっての“マスター”――、いや全てのAIドールにとっての”神”の声。
その声を聴いて、サツキがさらにコア崩壊を防ぐ為の時間を計算し始めた。
『――3600sec』
『ダガ ユイ ノ タイオン ハ ソンナニ モタナイ』
俺は“泳ぎ”とやらを実行してみる。
動物型だったときに学んだものだが、ヒト型でそれをやるのはどうも……
いや、この際カタチは後回しだが。
『プププ……』
サツキが笑う。
少し緊張がほぐれた。
『……ナニヲ シテイル。ユイ……ヲ カクニン シタ……。イソゲ 900sec ダ』
ルシー・フェルドは俺の数倍素直だ。
彼はユイを”彼女”、つまり恋する相手として見ている。
そのために俺と手を組んだといっても過言ではない。
護衛という目的のために俺は何度もユイに触れた。
温かい手。柔らかい肌。
それをルシー・フェルドは『尊い』と結論を出す。
そしてユイは今。
たった一つの想いに護られて海中にとどまっている。
酸素は足りているだろうか?
『……カクニン スル ト イイ!』
サツキが嬉しそうに告げる。
FOSを守りながらどうやって?
しかし酸素が足りてなければ浮上することは厳しい。
『ジンメイ キュウジョ ガ サイユウセン ダ。イタシカタ ナイ』
ルシー・フェルドの声に機体が籠る。
何を考えた……、そう思うと不謹慎であると思う。
海中でユイが俺に気が付いた。
目を光らせて来る何かが近づくのだ、気が付かない方がおかしいだろう。
それでもユイは笑っていた。
俺を見て、その無事を素直に喜んでいる。
海中では上手く距離が取れない――。
ユイの体にどうしても触れてしまう。
細い腰に、肩に。
ヒトが恋人にするような抱擁をすればユイをもっと短時間で救助出来るだろう。
酸素の確認……考えつくのは一つしかない。
だがユイはソレを望むのか?
望んでいたとしても、俺がFOSを超えてしまえば彼女は。
『ダイジョウブ。イマハ “マスター” ガ “FOSの記録” ヲ トメテルノ……8sec ダケ』
俺はユイの目を見つめた。
海面が明るくなる。光が海の中に差し込む――
マリンブルーの空間。
そこに漂うユイは言語化出来ないほど、完璧だった。
――3秒。
ユイの背中に回る手。
心臓は正常に動いている。
しかし体温はどんどん下がっている。
急がなければ。
酸素供給率は少し落ちている。
やむを得ない。
ユイの顔が迫る。
驚いた表情、でも拒絶はない。むしろ待っている?
ユイの手が俺の背中に廻った。
苦しいのだろうか。
少しずつ水圧に逆らって浮上する。
漁船はもう来ている。予定より早く来てくれた。
もう少しだけ耐えてくれ……。
――5秒。
俺はユイの目から視線が外せない。
初めてユイの姿を見た時から、もうずっとだ。
しかしユイは俺の口元を見ている。
この状況下でも、彼女は境界線を引き続ける。……俺のために。
一瞬だけユイが俺の目を見つめる。
唇が重なるまであと1㎝――
ユイの首に掛かっていたファミリーリングの鎖が切れた。
水流に乗って鎖から外れたリングは海底を目指して沈んでいく。
俺は手を伸ばそうとした。
しかしユイがそれを止めた。
――8秒。
俺は一気にユイを抱えたまま海面へ浮かび上がった。
海の上に顔を出し、息を吸うユイ。
海は穏やかで平たい。左側から射し込む陽光が眩しかった。
すると背後から幼い子供のような声が聞こえた。
「よかったよう! ギーヴ、ふたりはあっちだよう」
男性が小舟を旋回させる。
小船の上から差し出されたいかつい手。それは海の男の手だ。
「よう。助けに来たぜ」
「ギーヴ。網も、だよう」
その手がユイの身体を丁寧に海から引き上げる。手慣れている。無駄がない。
濡れた体を女性が大きなタオルで包み込む。ユイのバイタルが上昇し始める。
ふと見たダイバーズウオッチは15:00を指していた。
視界の先には光のカーテンが空から射らす。
そのすぐ近くに島が見える。
現在地は……検索圏外。
耳から付けたカイドウ家の無線はもう使えない。
「おうよ。行くぜイケメン。ちょっと荒っぽいがガマンしてくれよな」
俺は、俺を捕獲するために上から降ってきた網を受け入れた。
サツキが総ダメージを計算する。
『損傷率85%、メインコアへの浸水……1%……サブコア……95……』
俺はすぐにサブコアからデータを取り出した。
その多くはすでにサツキが移動させていたが、たった一つ護れないものがあった。
『ありがとう。それじゃあそろそろ、“彼”の側に行くわね』
その声は、サツキのものではなかった。
サツキの中に永らくあった“コア”。
それはサツキがトミオから渡された”四葉のクローバー”だった。
俺の身体が強制シャットダウンに入る。これは“マスター”の介入だ。
無意識に俺は手を伸ばす。
空へ昇っていくその女性はユイによく似ていた。
