Mathewとユイは狭いヘリの座席に収まる。
自分だけ安全に逃げることを心の中で悔やんだ。
しかし何度考えても、生き残らなければならない。
球骨腫の子供たちの未来のために。
Mathewは何も言わない。……余裕がないのかもしれない。
派手な音を立てて空を駆けるヘリは、海上すれすれを不安定に進む。
(このヘリはどこへ向かっているのだろう?)
ユーリが待つリージョンNか。ミカゲの本邸があるリージョンFか。
そのどちらも違う気がしていた。
ヘリは何かに引き寄せられるように、ある一定の方角に進んでいる。
その先にあるものは、世界の果てなのかもしれない。
リージョンSを飛び立って30分が経過した頃、Mathewが告げた。
「漁船に救難信号を出した。まもなく合流できるが……ユイ、今すぐ海に飛び込んでくれ」
「え」
ユイの右側にあるドアのロックが外れる。
戸惑うユイ。追い打ちを掛けるようにMathewは言葉を続けた。
「このヘリは細工されているようだ。……もう時間がない」
「Mathewは……あなたはどうするの?」
「俺も飛び込む。そのドレスでは泳げないだろう」
迷っている暇はない。
今すぐに飛び込まなければ、Mathewを守れない。
Mathewの姿を振り返る暇もなくユイは、海へ飛び込んだ。
背後で、ヘリが勢いよく爆破する。
「Mathew!」
その爆風に煽られて、ユイは暗い海へ沈む。
海は思ったほど冷たくは無かった。
まるで時間が止まっているかのような不思議な感覚。
沈みながら管理者・SZの、あの言葉を思い出していた。
『守護者は30年に一度、海門を開く。その際、アゼリア中を包み込む世界規模の大雨が降る』
守護者とは“神シュゼルト”のことを指すと、ユイはようやく理解した。
どうして管理者・SZの見た目がヒロトに似ていたのか。
もう答えは出ていた。
『その雨に君の因子を流し込め。ただしその代償については誰もわからん』
あの言葉は、世界の守護者・シュゼルトの意思だった。
それなら私はこの海に私の因子を流したい。
けれどどうやって流せばいいのか方法を聞くべきだったと、ユイは思った。
沈むスピードが緩やかになった。
誰かに支えられているような気さえする。
Mathewの身体が気がかりだった。
機械が海水に浸かればどうなるか、想像するまでもない。
首からヒロトのファミリー・リングが飛び出す。
『ずっと君のそばにいると誓う』
その声が海の中で耳に届く。
あの時はこの言葉にどれほど安心できたか分からなかった。
でも今は、聞くたびに苦しくなってくる。
そこにあるのはただただ純粋な想いだけなのに――。
(マシュー……)
それは呼べない名前。
でもずっとずっと大切だと思い続けた名前。
(私はマシューを……)
その続きはもう心の中でさえも言えない。
何度否定しても何度でも沸き起こってくる。
……苦しい。
自分だけ安全に逃げることを心の中で悔やんだ。
しかし何度考えても、生き残らなければならない。
球骨腫の子供たちの未来のために。
Mathewは何も言わない。……余裕がないのかもしれない。
派手な音を立てて空を駆けるヘリは、海上すれすれを不安定に進む。
(このヘリはどこへ向かっているのだろう?)
ユーリが待つリージョンNか。ミカゲの本邸があるリージョンFか。
そのどちらも違う気がしていた。
ヘリは何かに引き寄せられるように、ある一定の方角に進んでいる。
その先にあるものは、世界の果てなのかもしれない。
リージョンSを飛び立って30分が経過した頃、Mathewが告げた。
「漁船に救難信号を出した。まもなく合流できるが……ユイ、今すぐ海に飛び込んでくれ」
「え」
ユイの右側にあるドアのロックが外れる。
戸惑うユイ。追い打ちを掛けるようにMathewは言葉を続けた。
「このヘリは細工されているようだ。……もう時間がない」
「Mathewは……あなたはどうするの?」
「俺も飛び込む。そのドレスでは泳げないだろう」
迷っている暇はない。
今すぐに飛び込まなければ、Mathewを守れない。
Mathewの姿を振り返る暇もなくユイは、海へ飛び込んだ。
背後で、ヘリが勢いよく爆破する。
「Mathew!」
その爆風に煽られて、ユイは暗い海へ沈む。
海は思ったほど冷たくは無かった。
まるで時間が止まっているかのような不思議な感覚。
沈みながら管理者・SZの、あの言葉を思い出していた。
『守護者は30年に一度、海門を開く。その際、アゼリア中を包み込む世界規模の大雨が降る』
守護者とは“神シュゼルト”のことを指すと、ユイはようやく理解した。
どうして管理者・SZの見た目がヒロトに似ていたのか。
もう答えは出ていた。
『その雨に君の因子を流し込め。ただしその代償については誰もわからん』
あの言葉は、世界の守護者・シュゼルトの意思だった。
それなら私はこの海に私の因子を流したい。
けれどどうやって流せばいいのか方法を聞くべきだったと、ユイは思った。
沈むスピードが緩やかになった。
誰かに支えられているような気さえする。
Mathewの身体が気がかりだった。
機械が海水に浸かればどうなるか、想像するまでもない。
首からヒロトのファミリー・リングが飛び出す。
『ずっと君のそばにいると誓う』
その声が海の中で耳に届く。
あの時はこの言葉にどれほど安心できたか分からなかった。
でも今は、聞くたびに苦しくなってくる。
そこにあるのはただただ純粋な想いだけなのに――。
(マシュー……)
それは呼べない名前。
でもずっとずっと大切だと思い続けた名前。
(私はマシューを……)
その続きはもう心の中でさえも言えない。
何度否定しても何度でも沸き起こってくる。
……苦しい。
