Mathewが向かったのは婚姻会場の左端にある非常用のヘリポートだった。
そこには緊急用のヘリが置かれている。
“万が一の場合に備えて、ユイ様をお連れ出来る者が使うこと”
カイドウ家の護衛チームの総指揮官、フジナミ・エル・カイドウはそう告げた。
その場所に行けば誰でも操縦が簡単なヘリがある。
それは完全な初心者向けのヘリ。
一刻を争う事態になった時は重要な足になる。
それが目前に見えたとき。
赤い果実を手にした黒髪、機械で出来た猫耳を付けたAIドールが目の前に躍り出た。
「やあ、来ると思ってたよ」
それはレイラの護衛サポート用のAIドール、ラナンだ。
着ているのは執事服ではなく、戦闘用の黒装束。
Mathewがユイを庇うように前に立つ。
後ろからは、銃を構えたグライゼルの戦闘員たち10名。
四方を塞ぐように取り囲む。
彼らは人間なのかAIドールなのかもう判断が付かなかった。
「どうして……」
「どうしてって、僕の”主”がこの場所で僕を待機させたからに決まってるだろ」
「……悪いが、急いでいる。どけてもらおうか」
いつになく低い声だ。
Mathewは本気で怒っているのだろう。
「あのさぁ。平和ボケしてる? はいどうぞ、って言うわけないじゃん」
「……AIドール3原則……、忘れたわけではあるまい」
ラナンの煽りにMathewは乗らない。
ただただ静かに激情を含んだ声で正論を述べるだけだ。
「人間を傷つけない、人間の命令に服従、自己保存。ホント、マニュアル通り。……さあ女王様、どう対応する? 教えてよ」
ユイはMathewの後ろから、半歩前に出て、Mathewと並ぶ。
ミカゲに渡したファミリー・リングと同じものを、ユイも付けていた。
ユイが仕込んだのは“歌”でもなく“声”でもない。“麻痺の効果がある霧だ”
これはAIドールには効果がない。
至近距離で大勢に囲まれた時に有効になっている。
ユイが左手の薬指に右手を添えた。
それでMathewはユイの意図を推測した。いや、長年の学習から察した。
「以前君は、意図を知らずに主のサポートなんて出来ないと言っていたな」
「……さあ? 記憶にないけど?」
ラナンと対面した日は限られてる。
そんな昔の記憶もMathewにはあるという。
その明らかなMathewの異常性に、銃を構えた戦闘員たちが気付く。
「あなたたちにも守りたいご家族がいるはず。……それは私も同じです」
ユイは問いかけながら、素早く左の薬指からファミリー・リングを外す。
「……俺の妹は、カイドウ家の医療に殺された」
「神を守る為の戦いだ。還る場所はもとより一つ」
銃がユイに向けて発砲される。
Mathewが動いた。
軌道を読み、ユイに当たる前に、金属の指先が弾を弾いた。
何が起きたのか、ユイは理解できなかった。
ただタイミングとしては今だ! そう思ったユイは、
戦闘員たちの中央にファミリー・リングを投げつけた。
「OPEN」
ユイの声に反応した指輪。
勢いよく黄色の煙幕が流れ、消えた。
「なんだ……?」
「うぅ、ち、力が……!」
その隙にMathewが何かを空に向かって投げる。信号弾だ。
それを見て走ってくるミオンとセキジが見えた。
「ユイ様! お待たせ致しました!」
セキジが視線でMathewを促す。
Mathewは何も言わない。
迷わずユイの手を取る。
ラナンの背後にあるヘリに向かって走り出す。
「行かせるな!」
ミオンとセキジは背中を合わせ、ラナン含む戦闘員と対峙する。
ラナンはユイたちを何故か追わない。
追わないこと自体が、不気味だった。
ただ無表情で赤い果実を宙に投げては片手で受け取るを繰り返す。
直後、その果実を恐ろしい速さで空へ向かって飛び立つヘリに向かって、投げた。
それは正確に言うと果実ではなかった。
赤のインクが入った、果実の偽物だ。
白いヘリの機体に、血のように赤い染みが付く。
ヘリは薄暗い雲をした空を駆ける。
爆音と爆炎の中、ヘリの窓越しにユイが見たのは、崩落した聖堂の天井だった。
そこには緊急用のヘリが置かれている。
“万が一の場合に備えて、ユイ様をお連れ出来る者が使うこと”
カイドウ家の護衛チームの総指揮官、フジナミ・エル・カイドウはそう告げた。
その場所に行けば誰でも操縦が簡単なヘリがある。
それは完全な初心者向けのヘリ。
一刻を争う事態になった時は重要な足になる。
それが目前に見えたとき。
赤い果実を手にした黒髪、機械で出来た猫耳を付けたAIドールが目の前に躍り出た。
「やあ、来ると思ってたよ」
それはレイラの護衛サポート用のAIドール、ラナンだ。
着ているのは執事服ではなく、戦闘用の黒装束。
Mathewがユイを庇うように前に立つ。
後ろからは、銃を構えたグライゼルの戦闘員たち10名。
四方を塞ぐように取り囲む。
彼らは人間なのかAIドールなのかもう判断が付かなかった。
「どうして……」
「どうしてって、僕の”主”がこの場所で僕を待機させたからに決まってるだろ」
「……悪いが、急いでいる。どけてもらおうか」
いつになく低い声だ。
Mathewは本気で怒っているのだろう。
「あのさぁ。平和ボケしてる? はいどうぞ、って言うわけないじゃん」
「……AIドール3原則……、忘れたわけではあるまい」
ラナンの煽りにMathewは乗らない。
ただただ静かに激情を含んだ声で正論を述べるだけだ。
「人間を傷つけない、人間の命令に服従、自己保存。ホント、マニュアル通り。……さあ女王様、どう対応する? 教えてよ」
ユイはMathewの後ろから、半歩前に出て、Mathewと並ぶ。
ミカゲに渡したファミリー・リングと同じものを、ユイも付けていた。
ユイが仕込んだのは“歌”でもなく“声”でもない。“麻痺の効果がある霧だ”
これはAIドールには効果がない。
至近距離で大勢に囲まれた時に有効になっている。
ユイが左手の薬指に右手を添えた。
それでMathewはユイの意図を推測した。いや、長年の学習から察した。
「以前君は、意図を知らずに主のサポートなんて出来ないと言っていたな」
「……さあ? 記憶にないけど?」
ラナンと対面した日は限られてる。
そんな昔の記憶もMathewにはあるという。
その明らかなMathewの異常性に、銃を構えた戦闘員たちが気付く。
「あなたたちにも守りたいご家族がいるはず。……それは私も同じです」
ユイは問いかけながら、素早く左の薬指からファミリー・リングを外す。
「……俺の妹は、カイドウ家の医療に殺された」
「神を守る為の戦いだ。還る場所はもとより一つ」
銃がユイに向けて発砲される。
Mathewが動いた。
軌道を読み、ユイに当たる前に、金属の指先が弾を弾いた。
何が起きたのか、ユイは理解できなかった。
ただタイミングとしては今だ! そう思ったユイは、
戦闘員たちの中央にファミリー・リングを投げつけた。
「OPEN」
ユイの声に反応した指輪。
勢いよく黄色の煙幕が流れ、消えた。
「なんだ……?」
「うぅ、ち、力が……!」
その隙にMathewが何かを空に向かって投げる。信号弾だ。
それを見て走ってくるミオンとセキジが見えた。
「ユイ様! お待たせ致しました!」
セキジが視線でMathewを促す。
Mathewは何も言わない。
迷わずユイの手を取る。
ラナンの背後にあるヘリに向かって走り出す。
「行かせるな!」
ミオンとセキジは背中を合わせ、ラナン含む戦闘員と対峙する。
ラナンはユイたちを何故か追わない。
追わないこと自体が、不気味だった。
ただ無表情で赤い果実を宙に投げては片手で受け取るを繰り返す。
直後、その果実を恐ろしい速さで空へ向かって飛び立つヘリに向かって、投げた。
それは正確に言うと果実ではなかった。
赤のインクが入った、果実の偽物だ。
白いヘリの機体に、血のように赤い染みが付く。
ヘリは薄暗い雲をした空を駆ける。
爆音と爆炎の中、ヘリの窓越しにユイが見たのは、崩落した聖堂の天井だった。
