誰もが愛する国民的スターは私だけを溺愛する

 ――大丈夫。
 私は、私の仕事をするだけ。

 そう自分に言い聞かせて、扉を叩いた。

「失礼します」

 扉を開けると、社長室特有の静けさが広がっていた。
 大きな窓から差し込む光が、整えられたデスクの上を照らしている。

 社長――父は、書類から顔を上げて私を見た。

「急に呼び出して悪かったな」

「いえ、大丈夫です」

「それでなんだが、お前の次の担当が決まった」

「……はい」

 短く返事をしながら、私は無意識に拳を握っていた。

 父は書類をひとまとめにすると、立ち上がる。

「詳しい話は移動しながらする。着いて来い」

「……え?」

 一瞬、聞き返してしまう。

「今から?」

「ああ。本人に直接会う」

 その言い方が、あまりにもあっさりしていて、逆に現実感がなかった。

 私は急いで父のあとを追う。

 エレベーターに乗り、無言のまま下降していく。降りたあと、父は迷いなく外へ向かった。