誰もが愛する国民的スターは私だけを溺愛する

 社長室へ続く長い廊下を、私は早足で進む。
 無機質なタイルに、ヒールの音が硬く、やけに高く響いた。
 まるで、必死に自分の存在を主張しているみたいに。

 周囲の視線が、無意識に背中へ突き刺さる気がした。

 努力しても、成果を出しても、それが私自身の力だと認められることは少ない。
 結果を出せば出すほど、「七光り」という言葉が、影のようにまとわりつく。

 辞めようと思ったことも、なかった訳じゃない。いっそ、この会社を離れて、父のいない場所で一からやり直せば、もっと楽になれるんじゃないかと考えた夜もあった。

 でも――。

 そうしたら私は、「七光りから逃げた人」になる。

 実力で残れなかった娘。結局は守られていただけの存在。そんなふうに思われるのだけは、どうしても耐えられなかった。

 だったら、答えはひとつしかない。

 頑張り続けるしかないんだ。

 誰に認められなくてもいい。ただ少なくとも、自分だけは胸を張っていたい。あの日、面接で震える手を握りしめながら「ここで働きたい」と言った自分に、嘘をつかないために。

 私はそっと背筋を伸ばし、もう一度前を向く。

 社長室の前に立ち、深く息を吸った。