誰もが愛する国民的スターは私だけを溺愛する

 ちょうどそのとき、スマホが震えた。

 画面に表示された名前を見て、指先が一瞬止まる。
 ――社長。

「ごめん、ちょっと出るね」

 スマホを握りしめ、私は静かに立ち上がった。
 背筋を伸ばし、何も考えていない顔を作る。

「はい、白石です」

『結衣。今すぐ社長室に来れるか?』

 父の、仕事用の声だった。

「……わかりました。すぐ向かいます」

 通話を切ると、胸の奥がひやりと冷えた。

 まただ。
 こういうときほど、余計な憶測は勝手に膨らむ。

 ――やっぱり、社長の娘だから。

 幻聴だと分かっていても、背後から突き刺さる無数の視線が、確かにそう囁いている気がしてならなかった。
 席に戻ると、美咲がこちらの様子を伺うように顔を覗き込んできた。

「社長?」

「うん。今すぐ来いって」

「そっか……いってらっしゃい」

 心配そうに、それでも笑って手を振ってくれる。

「ありがと。あとでまた連絡する」

「頑張ってね」

 その一言に、胸の奥が少しだけ温かくなった。