誰もが愛する国民的スターは私だけを溺愛する

 エントランスは想像以上に広く、ホテルのロビーみたいに落ち着いた空気が流れている。
 出入りは厳重で、セキュリティゲートを通るだけでも緊張した。

 ここ、ほんとに住居?

 そう思いながらセキュリティを抜け、エレベーターに乗り込む。

 扉が閉まり、静かに上昇が始まった。

 一階、十階、二十階――
 数字が次々と切り替わっていくのに、エレベーターは止まらない。

(......まだ行くの?)

 内心ざわつきながら、表示を見つめる。

 やがて、最上階。

 軽い電子音とともに扉が開いた。

 そこは、廊下というより“専用フロア”だった。
 視界に入るドアは、ひとつだけ。

 タワマン最上階のワンフロア。

 さすがに、どんな大物なんだろうという疑問が浮かぶ。

 横に立つ父は、そんな私の動揺なんて気にも留めず、インターホンに手を伸ばした。

 私は深く息を吸って、背筋を伸ばす。

 しかし、しばらく待っても反応がない。

 父がもう一度押したとき、奥からごそっと、何かが動く音がした。

 ガチャリとロックが外れ、ドアが開く。