クロとシロと、時々ギン

 否定しても萌乃の心配顔は変わらない。

「さっきまでは幸せオーラ全開だったのに、今はなんか寂しそうですよ?」
「そんなことないわ。ただ、ちょっと眠たくなってきただけ」

 私は、わざと冗談めかして答えた。
 萌乃は眉根を寄せ、呆れたようにため息をつく。
 それから「はい」と言って、小さな包みを差し出してきた。

「なにこれ」
「チョコレートです」
「なんでチョコ?」

 私が訊ねると、萌乃はさも当然という顔で答えた。

「明日花さん、朝からほとんど食べてなかったですよね? ドレス着るからって。だから差し入れです。糖分取って元気出してください。無理しちゃダメですよ」

 萌乃の言葉を聞いて急に空腹を感じた私は、その包みを受け取った。

「萌ちゃんのそういう優しさが白谷先輩に伝わるといいね」

 萌乃は照れ臭そうに笑ってみせる。
 その時、ドアをノックする音が響いた。
 萌乃が私の様子を確認してからドアを少しだけ開ける。

 萌乃の肩越しに部屋の入り口へ視線を向けると、既に着替えを済ませいつも通りの爽やかなサラリーマンとなった白谷吟が立っていた。
 白谷吟は萌乃に向かって何か声をかけたようだが、くぐもっていて室内の私にはよく聞こえなかった。
 萌乃は白谷吟と二言三言言葉を交わすと、こちらを振り向いて声をかけてきた。

「明日花さん。白谷さんがお話があるようですけど、お通ししても良いですか?」

 断る理由は特になかった。
 白谷吟は控室に入ってくると、真剣な表情で私を見つめてきた。
 私は思わず背筋を伸ばしてしまう。
 彼は私に頭を下げると、突然こう言った。

「矢城さん、さっきはごめん! 余計な事をしたかなと反省しているんだ。でも、どうしても我慢できなくて」

 予想外の展開に私は目を丸くする。
 ぽかんとしたまま何も言えないでいる私の反応を見て、白谷吟は慌てて付け足す。

「あっ、もちろん、史郎の気持ちは分かっていての行動なんだけど。まさか話が進んでいないと思わなくて。つい……。君に嫌な思いをさせたかもしれない。そう思って謝りに来たんだ」