クロとシロと、時々ギン

 翌日、いつもより早く家を出た。
 会社の自分の席でシロ先輩を待つ。
 やがて、いつものようにシロ先輩がやってきた。

「お、クロ。早いな」

 私は深呼吸をする。
 そして、ゆっくりと口を開いた。
 震えそうになる声をなんとか抑えながら言う。

「シロ先輩、お話があります。今日、お時間ありますか?」

 シロ先輩は不思議そうに私を見つめる。
 それから、何かを察したように「ああ」と頷いた。

「じゃあ、昼飯外に行くか。少し遅くなるけどいいか? そのまま外回りの予定にしよう」

 私は大きく息を吸って、「はい」と答えた。
 私とシロ先輩の午後の予定は揃って外回りとなった。

 シロ先輩は相変わらず落ち着いているように見える。
 でも私は知っている。
 彼は動揺している時ほど、落ち着き払って見えるのだということを。

 私もそんなポーカーフェイスを身につけたいと思うけれど、なかなか上手くいかない。
 緊張で強張った頬を手で揉みほぐしながら、ふぅと息を吐く。

 シロ先輩がキーボードを叩く音が聞こえる。
 カタカタという音を聞きながら、私はぼんやりと隣の席のシロ先輩の手を見る。
 大きな手。指先。肩。横顔。シロ先輩は完全に仕事モードの顔になっている。

 そんな姿を見ていると、私だけがこんなにも緊張していることが悔しくなる。
 だからといって、シロ先輩も同じ気持ちになれなんて言えないけれど、やっぱり少しだけ悔しくて、少し恨めしい。

 そんなことを考えていたら、いつの間にかシロ先輩がこちらを向いていた。
 見惚れていたことがバレた気がして、ドキッとする。

「ぼーっとしてないで、午前中にやること片付けとけよ」

 仕事モードのシロ先輩の目がじっと私を捉える。
 慌てて「はい」と答え、急いで机の上に書類を広げた。
 今すぐにでも話を聞きたい衝動に何度も駆られるが、ぐっと我慢して目の前の仕事に集中する。