クロとシロと、時々ギン

 お互い苦笑いを浮かべる。

 このままでは帰れないと思った瞬間、二人の間を車が通り過ぎた。
 車列の向こう側で、シロ先輩がスッと手を小さく上げたのが見えた。
 私もそれに応えて大きく手を振る。
 それを確認し、満足した様子でシロ先輩は踵を返した。
 私はその背中が完全に見えなくなるまで、その場にいた。

 家に帰ってからというもの、私はずっとソワソワしていた。
 意味もなく部屋の中を行ったり来たりしてしまう。
 夕食を食べて、お風呂に入り、部屋に戻っても落ち着かない。
 ベッドの上に座り、ぼんやりとスマホをいじる。
 メッセージアプリを起動させてシロ先輩とのトーク画面を開く。
 しかし、何と打てば良いのか分からず、すぐに閉じてしまう。

 そんなことを繰り返していると、ふと脳内にシロ先輩の声が再生された。
 耳元で囁かれた声が蘇り、顔が熱くなる。
 今日の出来事が次々と思い出され、心臓がドキドキし始めた。

 私はシロ先輩が好きなのだ。
 改めて実感すると、胸がきゅっと締め付けられるようだった。

 今頃シロ先輩は何をしているのだろう。
 もう自宅へ帰りつき、ゆっくり過ごしているだろうか。

 そう考えた途端、ハッとした。私は勢いよく立ち上がる。
 甘い時間を過ごしたことで忘れかけていたが、なぜシロ先輩はあんなところにいたのだろう。
 確か、お爺さんの家に顔を見せに来たと言っていたはずだ。

(シロ先輩のお爺さんの家は、近くなの? あの神社まで歩いてきていたくらいだし、きっとそうだ)

 一瞬にして、期待で胸が高まる。

(まさか……。でも、そうだとしたら……)

 考えすぎかもしれない。それでも、確かめずにはいられなかった。私は部屋を飛び出す。

「お母さん、もしかしてシロ先輩のご実家って、近くだったりする?」

 リビングでくつろいでいた母に声をかけると、母は目を丸くして私を見た。

「えっ? 急にどうしたのよ?」
「いいから。で、どうなの? 近くなの? 近くじゃないの?」

 私が焦れたように尋ねると、母は不思議そうな表情を浮かべながらも答えてくれた。
 その答えが、私の心を一気に浮き立たせた。