クロとシロと、時々ギン

「お前なぁ……。まあ、でもそうだな。お前、全然俺のこと意識してなかったもんな」

 シロ先輩は、やれやれといった様子で肩をすくめて見せた。
 その口ぶりがまるで“自分は違う”と言っているようで、私は思わずムキになる。

「じゃあ、シロ先輩は、私のことを一体いつから好きだったって言うんですか!? っていうか、そもそも私まだ、好きとか言われてませんけど?」

 私の反論に、シロ先輩は一瞬驚いた顔をした後、呆れたようにため息をつく。
 そして私のおでこをピンと弾いた。
 突然の攻撃に驚いていると、シロ先輩がニヤリと笑う。
 それから耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。

「好きだ、クロ」

 その短い言葉が一瞬で私を硬直させる。
 心臓がドクンと大きく跳ね、身体中が熱くなる。
 顔がみるみる赤くなっていくのが自分でも分かった。

 シロ先輩は、私の反応を見て嬉しそうに笑う。
 その余裕の笑みがなんだか腹立たしくて睨むが、シロ先輩は動じるどころか、ますます愉快そうに笑う。

「もう、何なんですか! 自分は余裕だみたいな顔しちゃって。ズルいですよ!」

 大声で抗議すると、シロ先輩は堪えきれないという風に吹き出した。
 私は面白くなくて、プイッと横を向いて拗ねたふりをする。
 するとシロ先輩は、私の頭を優しく撫でてくれた。
 しばらくクスクスと可笑しそうに笑っていたが、やがてふぅと小さく息を吐き、穏やかな表情で私を見つめた。

「それでこそ、クロだな」

 予想外の言葉に、私は思わず目を吊り上げた。

「はぁ? 何がですか?」

 私の怒りなど気にする素振りもなく、シロ先輩は楽しげに笑って言う。

「さっきの甘々なクロもなかなか良かったけど、やっぱりこういうやり取りの方が俺ららしいだろ?」

 その言葉を聞いて、私はハッとした。
 確かに、私たちはいつもこんな掛け合いをしている。
 変に意識してぎこちなくなるより、いつも通りのやり取りができる方がよっぽどいい。
 そう思ったら、何だか急に可笑しくなった。私は声を上げて笑ってしまう。

「確かにそうですね。私たちには甘々な雰囲気は似合いませんね」

 そう言って笑い続ける私を見て、シロ先輩もつられて笑い出す。
 しばらく笑い合った後、どちらからともなく手を繋いだ。
 それだけで、心の底から幸せを感じることができた。