クロとシロと、時々ギン

 私はシロ先輩の背中にそっと手を回した。
 不意に、耳元でシロ先輩が囁いた。

「クロ。俺、勘違いしてもいいか?」

 その声に、私はゆっくりと顔を上げる。シロ先輩の顔はとても近くにあった。
 真っ直ぐに見下ろしてくるその瞳の奥に宿る熱に気づき、ドクンと心臓が跳ねる。
 シロ先輩の言葉の意味を理解した途端、顔がカァッと赤くなる。
 恥ずかしくて居ても立ってもいられず、ギュッと強く目を閉じた。

 すると、唇に柔らかい感触が触れた。シロ先輩の唇だと理解するのに時間はかからなかった。
 それはすぐに離れてしまう。
 私は無意識にそれを追いかけ、今度は自分からキスをした。
 チュッと小さな音を立てて唇を離す。
 私はシロ先輩の目を見て、はっきりと告げる。

「好き」

 シロ先輩は一瞬息を飲み、何かを言いかけて口を閉ざした。
 そして、もう一度先輩の方から口づけてくる。
 今度はなかなか離れない。むしろ深みを増していき、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだ。
 息苦しくなって薄く口を開くと、そこからヌルリと熱い舌が入り込んできた。歯列をなぞるように動き回るそれに翻弄され、頭がくらくらしてくる。
 先ほどとは比べものにならないほどの深いキスに、私の思考は甘く溶けていった。

 息が続かない。
 苦しさに思わず身じろぐと、シロ先輩がハッとしたように顔を離した。それから、バツが悪そうに俯く。

 そんなシロ先輩の様子を見て、私はクスッと小さく笑ってしまった。あまりにも可愛かったから。
 シロ先輩は拗ねたような顔のまま、ムニッと頬をつねってきた。
 痛い。
 でも、全然嫌じゃない。

 いつの間にか、涙は完全に乾いていた。
 私がいつまでも笑っていると、シロ先輩は再び抱きしめてきた。
 優しく包み込むような抱擁に、心の底から安堵する。
 やっぱり、この人のそばが一番落ち着く。
 私はシロ先輩の胸に頭を預けながら、ぽつりと呟いた。

「幸せすぎて怖いなぁ」

 とても小さな呟きだったのに、シロ先輩はちゃんと拾ってくれたらしい。
 私の髪を撫でながら、優しく言う。

「それは、俺のセリフだ」

 その言葉を聞いた私は嬉しくなって、シロ先輩の胸板にグリグリとおでこを押し付けた。