家族会議は、だいたい甘い

十月。運動会の日、空は驚くほど青かった。
園庭に広がるシート。応援の声。カメラを構える保護者たち。
しんいちは、首から下げたカメラを三回確認する。
「録画、押した?」
「押した。たぶん」
「“たぶん”は敵だよ」
いすみが笑う。

ここは、かけっこの列に並んでいた。
スタートラインで、いすみを見つけて手を振る。
しんいちは心の中で叫ぶ。
――転ぶな、転ぶな、でも転んでもいい!

ピストルの音。
ここは走った。
走った――が、途中で足が絡んで、転んだ。

息が止まる。
観客のざわめき。
ここは一瞬、顔を上げた。目が潤む。
泣く――と思った。

でも、ここは唇をぐっと結び、立った。
そして走った。
最後まで。

ゴールした瞬間、ここは堰を切ったように泣いた。
悔しさと、痛さと、やりきった気持ちが混ざった涙。

いすみが抱きしめる。
「よく立ったね。最後まで走ったね」
しんいちは、うまく言葉が出ず、ただ頭をなでた。

ここは泣きながら言う。
「…ころんだの、いやだった」
「うん」
「でも、にげなかった」

その一言に、胸の奥がぎゅっとなる。
転んでも、ゴールは逃げない。
逃げないって知った日だった。