ゴールデンウィーク。
家のリビングには、スーツケースと浮き輪と、なぜか折り紙の鶴が三羽いた。
「ここ、それ持ってくの?」
いすみが鶴をつまむと、ここは胸を張る。
「うみ、きれいだから、つる、とばす」
「飛ばしたら海に落ちるやつだよ」
しんいちが即ツッコミ。
「じゃあ、つる、みる!」
「うん、見るなら環境に優しい」
沖縄の海は、絵の具みたいに青かった。
砂浜に降りると、ここは靴を脱ぎ捨てて走る――寸前で止まった。
波が“しゃあっ”と寄せる音を聞いて、少しだけ目を見開く。
「こわい?」
いすみがしゃがんで聞くと、ここは唇を尖らせた。
「こわくない。びっくりしただけ」
「それが怖いってことだよ」
「ちがうもん」
家族で手をつないで、波打ち際へ。
足首に冷たい水が触れた瞬間、ここは「うわっ」と声を上げ、次の瞬間には笑った。
笑いは、怖さより強い。
ホテルのプールでは、浮き輪に乗ったここが“船長”になった。
「パパ、そこ、あぶない!」
「はい、船長!」
しんいちは忠実に従い、プールの端で足をぶつける。
「船長、指示が鋭すぎる…」
「いいから、すすむ!」
水族館では、ジンベエザメの大きさに、ここが言葉を失った。
ガラスの向こうを悠々と泳ぐ影を見上げて、ぽつり。
「…おおきいね。おそら、みたい」
いすみは、その表現がうれしくて、ここをぎゅっと抱いた。
しんいちは写真を撮りながら、心の中でメモする。
――この子の言葉は、これからもっと増える。
夜、ホテルのベランダ。
ここが寝たあと、夫婦は小さく乾杯した。ジュースで。
「旅行、来てよかったね」
いすみが言うと、しんいちはうなずいて、少しだけ真面目な顔になる。
「普段さ、つい急がせちゃうじゃん。靴とか、準備とか」
「うん。私も」
「でも今日、波が怖いって言えたのも、すごいよな。怖いって言えるの、強い」
いすみは、グラスを軽く鳴らす。
「この一年、たくさん“強い”が見られるね」
遠くで波の音がする。
沖縄の夜は、家族の未来をそっと照らしていた。
家のリビングには、スーツケースと浮き輪と、なぜか折り紙の鶴が三羽いた。
「ここ、それ持ってくの?」
いすみが鶴をつまむと、ここは胸を張る。
「うみ、きれいだから、つる、とばす」
「飛ばしたら海に落ちるやつだよ」
しんいちが即ツッコミ。
「じゃあ、つる、みる!」
「うん、見るなら環境に優しい」
沖縄の海は、絵の具みたいに青かった。
砂浜に降りると、ここは靴を脱ぎ捨てて走る――寸前で止まった。
波が“しゃあっ”と寄せる音を聞いて、少しだけ目を見開く。
「こわい?」
いすみがしゃがんで聞くと、ここは唇を尖らせた。
「こわくない。びっくりしただけ」
「それが怖いってことだよ」
「ちがうもん」
家族で手をつないで、波打ち際へ。
足首に冷たい水が触れた瞬間、ここは「うわっ」と声を上げ、次の瞬間には笑った。
笑いは、怖さより強い。
ホテルのプールでは、浮き輪に乗ったここが“船長”になった。
「パパ、そこ、あぶない!」
「はい、船長!」
しんいちは忠実に従い、プールの端で足をぶつける。
「船長、指示が鋭すぎる…」
「いいから、すすむ!」
水族館では、ジンベエザメの大きさに、ここが言葉を失った。
ガラスの向こうを悠々と泳ぐ影を見上げて、ぽつり。
「…おおきいね。おそら、みたい」
いすみは、その表現がうれしくて、ここをぎゅっと抱いた。
しんいちは写真を撮りながら、心の中でメモする。
――この子の言葉は、これからもっと増える。
夜、ホテルのベランダ。
ここが寝たあと、夫婦は小さく乾杯した。ジュースで。
「旅行、来てよかったね」
いすみが言うと、しんいちはうなずいて、少しだけ真面目な顔になる。
「普段さ、つい急がせちゃうじゃん。靴とか、準備とか」
「うん。私も」
「でも今日、波が怖いって言えたのも、すごいよな。怖いって言えるの、強い」
いすみは、グラスを軽く鳴らす。
「この一年、たくさん“強い”が見られるね」
遠くで波の音がする。
沖縄の夜は、家族の未来をそっと照らしていた。
